Long Story
□其の五
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あれから数ヶ月が経った。
謀反の主犯である藍染惣右介は、四十六室の決定で地下大監獄最下層第八監獄「無間」へと収監された。
第八監獄「無間」には現在数名が収監されており、その中は一切の光を拒絶する圧倒的な闇が支配する。
「無間」に収監されているのは、何万年という刑期に処された大罪人のみ。
彼らがそこに入ることになった理由と、それに繋がる情報の一切は四十六室の手によって抹消され、死神達の中にその者達に関する記憶が残ることはない。
第八監獄「無間」への収監は、「投獄される」というよりは「封印される」という言い方の方が合っているのかもしれない。
*
狛「では鉄左衛門、儂は暫し出て来る。後を頼んだぞ」
射「はい。わかりました」
射場との短い会話を終え、狛村はリードに繋いだ五郎と共に隊舎を出た。
紬「お」
狛「む」
隊舎の門を潜った直後、恐らくブラブラして来たであろう紬と、狛村は鉢合せた。
五「わふっ」
紬「わんちゃん、五郎連れてどこ行くんだ?」
先に声を発したのは、五郎と戯れだした紬だった。
彼女に対して、相変わらず懐かしいようないっそのこと泣いてしまいたいような気持ちに陥るのだった。
狛「ああ、これから五郎の散歩へな。良ければ貴公も来るか?」
紬「行く!!」
五郎の散歩に行けるのが嬉しいのか、将又狛村に誘われたのが嬉しかったのか、紬は大きく、何度も頷いた。
瀞霊廷 裏山
紬「なあ、わんちゃん。五郎の散歩って、いつもこういうとこに来んの?」
狛「ああ……最近は特に、この上へ足を運んでおる」
紬「ふーん……どうでもいいけど、これどこまで登んの?」
狛「もう少しだ……朝日向、その辺りは滑り易くなっておる。足元に気を付けろ」
紬「だいじょぶだいじょぶー。そんなドジ踏まねえから……って、うお?」
狛「朝日向!」
滑ると狛村が言った側から、紬は見事に足を滑らせた。
しかし、狛村がすぐに腕を取り引き寄せた為、紬は怪我をせずに済んだ。
紬「び、ビビったー……マジで滑ったよ、おい。危ねー……サンキュ、わんちゃん」
狛「全く、言った側からこれか。貴公は注意力というものが足りぬぞ」
紬「うん。わかった。わかったからそろそろ離してくだサイ」
狛「む?…す、すまぬ!わわ儂としたことが、このような……っ許せ朝日向!」
紬を抱き締めている状態にあったことに気付いた狛村は、慌てて離れた。
意図せず、顔に熱が集まる感覚がする。
それから気を取り直して暫く歩くと、狛村がもう少しだと言っていた目的地に着いた。
そこは小高い丘の上で、そこからは瀞霊廷は勿論、瀞霊壁の向こう、流魂街まで見渡すことが出来た。
更には、地平線に沈み逝く黄金色の夕日をも一望出来た。紬は、暫くすげーだの生きてて良かっただのと騒いでいた。
狛「…そういえば、朝日向」
紬「ん?なにさ、わんちゃん!」
狛「数ヶ月前の……あの騒動の時、儂は貴公に救われた……礼を言う」
紬「へ?あたし、わんちゃん助けた覚えないけど?」
狛「いや、救われたのだ……貴公の御陰で、儂と東仙は更木を殺めずに済んだのだからな……感謝しておる」
紬「いや、あれはただ、愛胡を悲しませたくないと思っただけで…」
狛「あの時、儂は貴公から、人を赦す心というものを教えて貰った。その相手が例え、更木のような奴であってもだ」
夕日から目を逸らすことなく、狛村は続けた。
狛「それに、貴公は他にも、儂の知らなかったことを教えてくれた」
紬「え?あたしなにか教えたっけ?」
狛「…人を好く心だ」
紬「ふえっ!?」
狛村の答えに驚いた紬が、妙な声を発していた。
狛「貴公は、儂の知らぬことを沢山教えてくれた。だが儂は、もっと様々なことを知りたい……なにより、朝日向」
狛村は、夕日から紬へ、ゆっくりと目線を移す。
狛「儂は、貴公を知りたい。貴公の全てを知り、貴公の全てを受け入れたいのだ」
紬「わ、わんちゃん…?」
狛「気付いていたかもしれぬが、儂は貴公を想っておる」
紬「へ?おもってる?え?なに?どゆこと?」
狛「…では、言い方を変えよう。朝日向……儂は、貴公に恋をしておる」
紬「こ、い…?」
狛「ああ、貴公のことが好きだという意味だ」
狛村がそこまで言うと、紬は忽ち真っ赤になった。彼女は狛村の想いをやっと理解したようだ。
狛「朝日向…?」
朝日向「え、あ……あっ!そ、そろそろBLEACHの時間だった!あああたし帰るっ!じゃな!わんちゃん!!」
狛「お、おい朝日向…!」
あまりの恥ずかしさからか、紬は逃げるようにその場を去った。
思わず静止をかけた狛村だったが、瞬歩を使わずに駆けていく紬の姿に、暫く微笑んでいたのであった。