突撃!? 隣の十三隊♪

□ドレッドと編集者の九番隊
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「おはよう、みんな! 元気? リポーター人気ランキング第1位の、紬だよーっ」
「おはようございます、解説の藤嶺愛胡です!」

 ふたりの元気な笑顔で、本日の放送が始まった。
 前回が八番隊だったので、今回は九番隊だと推測する。九番隊はとても忙しいイメージがあるが、今回も例に漏れずアポなしなのだろうか。
 一抹の不安が否めない。

「いやー、最近天気がよくていいね!」
「ほんと。洗濯物がよく乾くし、気分もよくなるしね」
「こんな天気には、突撃したくなるね! ねっ?」
「え、あ、うん。えーっと、今日は確か、九番隊?」
「そう!」
「アポはとってないんだよね」
「当然。アポなしは一貫だ」
「でも、さすがにあの九番隊にアポなしは迷惑なんじゃないかな……」

 彼女もこちらと同じ気持ちのようだ。
 毎回どの隊もアポなしで割と迷惑だったように思えるが、今回の九番隊は一際迷惑なのではないだろうか。
 九番隊は、通常の任務や執務に加え、瀞霊廷で大人気の雑誌、瀞霊廷通信の編集、発行も行っている。
 個性豊かな死神達の原稿の仕上がりや締め切りなどで、四苦八苦しているのでないだろうか。

「でもそんなの関係ねえ!」
「なにその動き」

 紬が急に手足で奇妙な動きをして見せた。いつもの、我々では理解しがたいネタなのだろう。

「出版社だって、突撃!? のメンバーなんだから、そこら辺分かってくれるでしょ」
「そうかなあ」
「さあ、このお天気をムダにしないために、さっさと行くよ! せーのっ」

 愛胡は、不安な顔のまま紬と共にジャンプをした。
 初期ではこのモーションに戸惑っていた愛胡だが、彼女もこの番組をやっていく中で成長したのだろう。

 画面が変わり、ふたりが着地をしたところは建物の中の廊下と思われる場所。そこでも騒がしいことが分かった。
 書類などを持った隊士らしき人達が、慌てた様子で行き交っている。
 彼女達を怪訝そうに見るものの、それどころではないのか皆通り過ぎていった。


「やっぱりみなさん、忙しそうだなあ……」
「うん、みんな精が出るねえ。えーっと、ここだよね? おっじゃまーっ」

 紬が意気揚々と目の前のドアを開ける。
 室内は、人と書類で溢れ返っていた。人々が忙しなく動き、大量の書類のやりとりを行っている。

「う、うわぁあああ!!」

 今ひとり、書類の雪崩に飲み込まれていった。

「ほ、ほんとうにやめた方がいいんじゃない? 私たち、きっと邪魔だよ……」
「ダイジョーブダイジョーブ!」
「――えっと、すみません。もしかして、あの各隊に訪問する番組ですか?」

 ひとりの隊士が、こちらへ話かけてくる。

「そのとおり!」
「では、只今檜佐木副隊長がいらっしゃるので、お呼びして参ります」
「おう、頼んだ!」

 隊士が、奥の編集長室らしきところへ姿を消す。
 少しして、そこから男性がひとり、急いだ様子で出てきたのだった。

「あ、お疲れ様です、檜佐木副隊長!」
「おっす、編集長! お疲れ!」
「いや、俺副編集長ですけど……って、いうか、突撃のヤツっスよね!?」
「おうとも。お前がよくご存じの! ついに自分の隊の出番だぞっ」

 楽しそうに述べる紬。男性の方は顔を青白くさせている。

「マジですか。やっぱり本当にアポなしなんですね……」
「そ! で、ドレッドいる? さっそくいろいろしたいんだけど」
「あ、はい……でも、出来れば少し待ってもらいたいんですけど。今ちょっと色々と立て込んでて……」
「あー、おっさんの原稿、しめ切りに間に合わないとか」
「……ええ、まあ、実は」
「ハハッ、やっぱりね!」
「あと、ここだと、公開前の原稿とかが映ってしまうかもしれないので、隊舎の方で待っていてもらえます? もう少しで今編集しているものが終わるので」
「いやいや、そんなの関係ねえ! 遠慮なく突撃するぞ!」
「紬っ。隊舎の方で待たせもらおう?」
「ジョーダンだって。じゃ、終わったらすぐ来いよ。待ってるから」
「はい、すみません」
「というワケで、一旦CMでーす」



 次に映ったのは、先程とはうって変わって静かな室内。そこには、愛胡と紬と共に2人の男性がいた。

「はーい、ではさっそく紹介しまーす。こっちのレゲエっぽい人が東仙サンだYO!」
「レゲエ……?」
「すみません、無視していいですよ、東仙隊長」
「そ、そうか。……九番隊隊長の東仙要だ。よろしく頼む」
「そして、こちらが檜佐木修兵副隊長です」
「どうも」

 レゲエと呼ばれた東仙隊長は、特徴的な髪型をしていた。髪の毛を根元から編み込んでいるようで、その束を後ろで纏めている。そして、その目にはゴーグルのようなものを当てていた。
 檜佐木副隊長は、先程編集部で登場した男性である。左頬に69の刺青を彫っており、右側には額から顎にかけて三本の傷がついてる。

「えー、九番隊ってどんな隊だったっけ? これといってインパクトがねえよな。五番隊と同じで」
「五番隊にも失礼だよっ。えっと、こちらは平和や正義を重んじる隊だと思います。東仙隊長はとても穏やかで落ち着いていて優しげな方ですが、曲がったことを嫌い、常に正しい姿勢で物事に臨んでいらっしゃいますね。そして檜佐木副隊長は真央霊術院時代からとても才能があるといわれていらっしゃるようで、九番隊の副隊長になった今でもとても頼りになる方です。この突撃!? 隣の十三隊♪のスタッフもやってくださっている優しい方ですよ」
「毎回思うけど、藤嶺の説明すげえな。自分で考えてるんだろ?」

 番組が始まった当初は、その隊の説明を紬が適当にやったり隊長や副隊長に任せていたりしていた。
 それが段々、愛胡の役割となっていき、今では分かりやすく解説してくれている。

「あ、はい。最初は紬がよく分からない説明をしていたし、隊長さんや副隊長さんにお願いしちゃったりしていたので、やっぱり自分が分かりやすく説明しなくちゃなと思って」
「うん、愛胡の説明は分かりやすいよ!」
「ああ、よく纏まっている。ただ物事を調べ、相手に伝えるだけなら、誰にでも出来るだろう。だが、相手に疑問が残らないよう、考え、解り易く纏めることは、誰にでも出来ることじゃあない。六席とはいえ、大したものだ。皆が君に一目置く理由が、少し解った気がするよ」
「そ、そうですか? ありがとうございますっ」

 東仙隊長にも褒められ、愛胡ははにかんだ。

「あとは、やっぱりアポをとった方がいいと思うんだが……実際に自分がやられて分かった。かなり迷惑だな」
「すみません……」
「だっからそこがミソなんだって言ってんだろ? 突然突撃することに意味があるのっ。おもしろいのっ」
「今回は、偶々こちらの時間が取れたからよかったが、他の隊ではそうはいかないだろうな。特に、その……十二番隊とか」

 東仙隊長に案じられた。
 この番組や他の隊にも憂慮してくれるなど、九番隊は心優しい。
 十二番隊というと、あの涅隊長の隊だっただろうか。
 自分の記憶でも、彼はこのような番組には出なさそうな人物である。

「あー大丈夫大丈夫! なんとかなるって!」

 しかし、それとは逆に紬が能天気に答えた。

「いや、十二番隊は流石にアポ取った方がいいですって、マジで。ただでさえ涅隊長は、こういうの出なさそうだし」

 檜佐木副隊長はこの番組のスタッフだから、尚更心配なのだろう。

「大丈夫大丈夫! そのときはあたしがなんとかするからっ」
「まあ、確かに。君ならなんとかしそうな気はするな」
「だろ? ドレッドもそう思うだろ?」
「ドレッド……?」
「あたしがいるから大丈夫だって!」
「うーん、でも確かに十二番隊のときが来たら不安だなあ」
「大丈夫だって! それに今そんなこと気にしてる場合じゃないだろ? 今は九番隊に突撃してるんだから」

 紬の言う通り、今は九番隊の紹介をしている。この先の心配をしてもしょうがないだろう。

「あ、そうだったね! 皆さんすみませんでした! えっと、こちらの九番隊は、数ある隊の中でも特に文系が多く、皆さんもご存じの通り、瀞霊廷通信の編集や発行も行っております」
「あ、そうそう。あの激烈面白い瀞霊廷通信な! みんなも定期購読して、友達と差をつけよう!」
「それでは今一度、瀞霊廷通信の内容や魅力をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、それじゃあ俺から。瀞霊廷通信とは、今瀞霊廷で起こっている事件や流行しているものなどの記事は勿論、死神達が執筆した小説や作品も掲載されています。しかし、我々死神は本来の執務や任務やその他諸々がある為に、作品の掲載や連載を休止、停止をする場合がよくありますので、ご了承ください。因みに俺もいくつかコーナーを持っているし、単行本も出ています! みんなヨロシク!」
「あー、あのつまんねえヤツ」
「え? なにか言いました?」
「いや、なんも?」

 聞き間違いだろうか。紬が小声で何かを言ったような気がした。

「そういえば、東仙隊長も作品を連載しておられますよね」
「ああ。『正義の道』という作品を書いているよ。長年、正義について持論を書き綴っていたが、最近では趣向を凝らして「正義のレシピ」というものを掲載し始めたんだ。その名の通り料理のレシピなんだが、始めてみると中々奥深くてね。例えば、この料理と正義は一見何の関係性もないと思われがちだが、そこには幾つもの共通点がある。そういったことをレシピと共に紹介していたら、女性死神読者からの反響を呼び――」
「――なあなあ、ドレッド、なんか迷走してない? 料理と正義ってどゆこと?」
「それは俺にも分かりません。そっとしておいてください」

 東仙隊長が自らの作品について語っている最中、紬と檜佐木副隊長が小声で話す。マイクがその声を拾ったのだった。

「なるほど。料理と正義ですか。東仙隊長らしい着眼点ですね。裏話が聞けてよかったです。はい、それではこの辺でお別れでしょうか」
「おう! 死神と瀞霊廷通信、二足のわらじの九番隊でしたー」

 それにしても、料理と正義を結びつけるのは斬新である。女性の死神に人気が出たというのなら気になる。
 自分も定期購読をしてみて、友人との差をつけてみようか。
 

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