突撃!? 隣の十三隊♪

□おっさんと美人の八番隊
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「……えー、みんな大好き紬ちゃんです」
 
 晴天の下で本日の放送が始まった。
 また紬のありあまる元気な調子で開始するのかと思いきや、彼女にやる気が感じられない。

「解説の藤嶺愛胡です」

 愛胡も元気なく自己紹介をした。
 画面にノイズが入っているし、がたがたと揺れている。

「…んー、あー……あのさあ」

 紬が不愉快そうに口を開く。

「100歩、いや、500歩くらい譲ってアンタが一緒に来るのは許してやるとしてさ、もちょっと機嫌どーにかしてよ」

 紬が言うと、がたがたと揺れながら画面が移動する。映った人物を見て、血の気が引いた。
 そこにいたのは、戦鬼と恐れられる十一番隊の隊長更木剣八その人だった。
 過去の放送を思い返せば、彼が出現するとろくなことが起こらなかった。
 単純に彼に対して恐ろしく思うこともあるが、また今回の放送も悲惨なことになるのでは、と憂慮する。
 腕組みをしていた剣八は、こちらを見て右手を伸ばしてきた。

「何勝手に映してんだよ」
「ひぇえっ」

 カメラを手で制する剣八。情けない声が聞こえたが、カメラマンのものだろうか。

「えー、剣八は愛胡が心配で来たんだけど、みなさん別に気にしなくていいっスよ」

 再び愛胡と紬が映ったが、相変わらずノイズが走っているし揺れている。
 ノイズは剣八の霊圧のせいで、揺れているのはカメラマンの緊張か恐怖の為だろうか。

「とりあえずお前は霊圧を抑えて、豚はカメラを揺らすな。いいな?」

 どうやら、カメラマンは豚のように太っている人物らしい。

「豚じゃねえ!」
「うっせえ、イベリコ豚の方がヒエラルキーでてめえより上だ」
「意味分んねえ!」
「イベリコ豚はうめえが、てめえはただの油まみれだろうが」
「ちょっと、紬。機嫌悪すぎ。抑えて」

 愛胡に諭され、紬が口を尖らせる。
 紬は常にテンションが高く、喜怒哀楽が激しかった。しかし、今は怒っているようだが声を荒げてはいない。
 これは相当機嫌が悪いということだろうか。

「だってコイツいるとメンドくせえんだもん」

 画面に向かって指さしたが、カメラマンの後ろにいる剣八を指しているのだろう。

「それについては全面的に謝るけど……」
「まあ、今日突撃するのは八番隊だし? 分るっちゃ分るけど? でもまた前みたいに騒ぎを起こしてくれちゃったら困るし――」
「どうでもいいがさっさと行けよ」
「あ゛あん!!?」

 カメラの後ろから聞こえてきた声に、紬が勢いよく凄む。

「テメエコラなんだと??」
「さっさと行けって言ったんだ。時間の無駄だろ。行かねえなら帰るぞ、愛胡」
「テメエコラハゲェ。テメエ何様のつもりだよテメエアアン?」
「ちょっと紬、剣八さん……」
「ここで本当に時間を無駄にしてるってことは分った。もう愛胡を出す必要はねえな。帰るぞ」

 剣八がカメラの前に出てきて、愛胡の腕を引っ張った。

「ちょ、ちょっと……!」
「た、隊長……今ほんとに、本番中なんスから大人しくしててくださいよ」

 カメラ外から男の人の声がする。十一番隊の隊士なのだろうか。

「ハゲカンペの言うとおりだぜ」
「ハゲは余計だっつの!!」
「お前ほんと、マジ、大人しくしててくんねえ?」

 紬の髪が波立っている。彼女の怒りが表れているのだろう。

「大人しくしてろって頼まれる筋合いなんざねえよ。おめえが大人しくしてろ、猿女」
「くたばれビックフット――!!」

 紬が剣八へ飛びかかると、唐突に画面が切り替わった。

「――はい。我々は今、八番隊の隊主室に来ておりまーす」

 恐らく、紬と剣八との乱闘を編集でカットしたのだろう。
 紬の機嫌も直ったようで、画面にノイズが走っていないし揺れてもいない。
 それにしても冒頭が長すぎだ。
 剣八が出てくると、本当にろくなことがない。
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