突撃!? 隣の十三隊♪

□冷静と情熱?の六番隊
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「はーい、みんな元気ー? 紬でーす」

 本日も紬の笑顔で番組が始まった。
 今回は、前回の放送から随分と間が空いた。元々不定期放送なのだが、今回は特にそうだった。

「解説の藤嶺愛胡です」

 紬の隣で、愛胡が申し訳なく自己紹介をした。

「前回の放送で、情けないところをお見せしてしまい、本当にごめんなさい」
「いやー、気にすんな!」

 紬があっけらかんとして、愛胡の肩を叩く。しかし、愛胡の表情は晴れない。

「でも……」
「それよりさー、聞いてよ!」

 愛胡に構わず、紬はこちらに向かって話し出した。

「あのあとね、激怒した剣八がな、愛胡にもうこの番組に出るの禁止っつってな。それからあたしと兄貴の愛胡を賭けた戦いが始まったんだ!!」
「戦いって……」
「また愛胡を番組に出演させるために剣八を説得しようとしたんけどね、それはもう筆舌に尽くしがたい戦いだった。ひとつの映画みたいになってね……お互いの斬魄刀が混じり合い、霊圧が乱れ合い、互いの思いをぶつけ合い、そしてついに――山じいに怒られてまた謹慎処分食らった」

 またと言うのなら、以前にもそのようなことがあったのだろう。

「そのときの山じいな、炎を纏って『こりゃ――!!』って言いながら登場してさ! まじウケるっっ」
「笑いごとじゃないよ……」
「んでね、あたし頭悪いからさ、最近山じい、分かりやすく説明しくれるようになったんだけど、そのとき山じい、『儂はもう激おこぷんぷんじゃよ!!』つってね! っあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ腹イテー」
「何、激おこぷんぷんって」
「あたしが山じいに教えてあげた言葉! 超怒っているよ! って意味。そんでね、あたしと兄貴ね、正座させられたんだけど、兄貴の正座姿とかまじウケるんですけど! そのあと、うちら生まれたての小鹿みたいになってさ、プルプルでっ」

 笑いを堪えながら言う紬に、反省の色は見えない。

「兄貴、あの巨体をプルップルさせてさっ。もうあたし、爆笑してさ! そしたら山じいに頭はたかれた」
「もう……」
「ま、そんなことより! 今回は六番隊の隊舎にお邪魔しまーっす!」

 勝手に話し出し勝手に終わらせた紬は、後ろにそびえる建物を指した。
 今回は、六番隊を訪問するらしい。
 画面が切り替わり、室内にはふたりの他に長めの黒髪の男性に、赤い髪を括った男性がいた。
 黒髪の男性が隊長羽織りを着ているので、おそらく彼が隊長だろう。

「えー、こちらが六番隊隊長のクッキー!」
「朽木白哉隊長です」
「んで、こっちがアバラボキボキ電子レンジ!」
「ひどいっ!!」

 確かに酷いネーミングだった。

「阿散井恋次副隊長です! すみません……」
「ガキんときの辛い記憶を思い出させないでくれ……」
「えっ」
「えっ」

 項垂れた恋次の言葉に、愛胡と紬が面食らった。
 もしかして彼は、幼少期名前でいじめられた経験があるのだろうか。

「あー、えーっと、この隊は、すっごく規律とか厳しいイメージ。ルールを守れねえヤツは入れない系?」
「そう。朽木隊長は、死神の模範のような方です。とても落ち着いていて冷静で、能力も高く、隊の規律をしっかりと遵守する死神の鑑です」
「おまけにイケメン」
「そして、副隊長である阿散井副隊長は大らかで明るく、とても頼りがいのあるお兄さんみたいな方です」
「なあなあ、レンジってさ、ゴーグル集めてるんだよな?」

 紬が尋ねると、阿散井が頷いた。

「ああ、そうだ」
「でも、なんでいつもそんな手ぬぐいしてんだ? ゴーグルつけりゃいいのに」
「ああ……」

 阿散井は、表情を暗くして頭に巻く手拭いに触れる。

「俺、ゴーグル好きでつけてたんだけど、なんか戦う度にことごとく壊れていったんだ」
「ブハッ」
「ゴーグルは安くねえからさ。だから、最近はこの手拭いをつけてるんだ」
「アッハハハハハ、ウケるーッ。戦いの度に壊れるってっ」
「紬、そんなに笑っちゃ失礼だよ」
「戦いの度に壊れるってフビンすぎるだろっっ」

 何だか今回は紬がよく笑う放送だ。

「そんなに笑うなよ。こっちはスゲーショックなんだから」
「あー、わりーわりー。でさ、レンジは玉蹴りが上手くてさ、よく一緒にやるんだ」
「アンタ、やる度に玉破裂させんの、マジやめてくれよな」
「あー、あれおもしろいよな。蹴った瞬間、パーンってなるもんな! みんなポカーンだよ」

 玉を蹴って破裂させるとは、相当な威力なのだろう。

「あっ、そうだ!」

 そこで紬が声を上げて振り向いた。

「クッキー、アレ見してよっ」
「あれ?」

 紬が急に朽木にそう声をかけた。
 愛胡は、何のことかと首を傾げる。

「生憎だが、今は持っておらん」
「えー」

 どうやらふたりだけに通じることのようだ。

「じゃあ、今描いてよ。あたしね、アレ、好きなんだ」
「仕方ない」
「隊長、まさか……」

 阿散井が、悪い予感がするように顔を青褪める。しかし、朽木はそんな阿散井に構わず、白い紙を取り出して筆を滑らせた。
 一切の迷いもない筆運びだが、一体何を描いているのだろうか。

「おっ、出来た? じゃあ、カメラに見せて」

 そこには、奇妙な物体が描かれていた。
 見事な達筆で、わかめ大使と描いてある。その物体の名前だろうか。確かにそれはわかめに見えなくもない。それには手足があり、陽気そうに片手を上げている。頭には捩じり鉢巻きを巻いており、もこもこの眉毛が生えている。

「じゃーん! わかめ大使でーすっ。いい味出してるでしょ! もうこの六番隊のゆるキャラだよね」
「六番隊のゆるキャラじゃねーよ! 何なんだよわかめ大使って!」

 どうやら紬は、このわかめ大使を気に入っており、阿散井の方はこの存在を認めてないようだ。

「わかめ大使はクッキーが考えたキャラだよ!」
「そんなことは知ってるわ! だから、何で隊長はそんなものに自信を持ってんスかって話!」
「そんなもの? 貴様、私の考案したわかめ大使をそんなものだと?」
「あ、いや、そうじゃなくて、ただ、隊長はなんでそれに絶大なる自信を持ってるのかなって」
「当たり前だろう。私が考案したわかめ大使なのだから」
「いや、その、何なんですか、わかめ大使って。どういう存在なんスか」
「このわかめ大使は、この世の業の一切をその身に引き受ける者だ」
「なんスかそりゃ!!」
「今考えた」
「今かよッ!!」

 朽木の言葉に、思わず敬語を忘れる阿散井。

「あっはっはっはっ、クッキー最高!」
「……朽木隊長って……こんな人だったっけ……」

 紬は腹を抱えて笑い、愛胡は酷く驚いた。

「まあ、あれだ。規律とかに厳しい六番隊でも、結構おもしれーとこがあるってことだな」
「……でもよかった。今日は、何だか平和そうに番組終われそう」
「んじゃ、もう終わらせるか! じゃあ、実は楽しい楽しい六番隊でした〜。ばいばーい!」

 最後、ふたりは笑顔で手を振り、阿散井は複雑そうな表情で手を振って、朽木はというと、ドヤ顔でわかめ大使を掲げていた。
 今日の放送は、一番平穏無事で終わった。




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