突撃!? 隣の十三隊♪

□嫁とピンクとあと眼帯の十一番隊
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「そして、この隊の中で異彩を放つ存在というのが、他でもないこちらの藤嶺六席です」
「え、私!?」

 いきなり自分が話題に上ったことにより面食らう愛胡。

「彼女は元四番隊であるが故に、勿論斬魄刀の能力も治療のみです。それがなぜ、こちらに異動されたかというと、先程も述べた通り、十一番隊は怪我人も多く、それなのに治療しに来ない。なので、この隊の中に治療出来る死神がいれば、彼らの態度や行動も変わるのではないか、ということで、彼女がこちらへ席を移した次第です」

 愛胡は、羞恥心による居心地の悪さからか、視線が泳いでいる。

「では、それなら何故そのような死神に彼女が選ばれたのか、テレビの前の皆さんも気になるところだと思いますが、それを今から更木隊長と草鹿副隊長に伺ってみましょう」
「え!?」

 それに戸惑ったのが愛胡である。

「まずは、草鹿副隊長からお願い出来ますか」
「うんっ。えっとねえ、あたしがあんこともっと遊びたかったから!」

 やちるが天真爛漫に答えた。
 実に彼女らしいが、そのような理由では納得し難い。

「と言いますと?」
「あのね、あたし、あのとき、限定のこんぺいとうが買えなくて泣いてたらね、あんことぶつかっちゃったの。そしたらあんこがそのこんぺいとうを、まほうみたいに出してくれたんだよっ。ね、あんこっ」
「はい、そうですね」
「つまり、草鹿副隊長が買いたかった金平糖を、藤嶺六席が差し上げたということでしょうか」
「うんっ。あたし、すっごくうれしくてね、このおねえちゃんともっとあそびたいって思ったの! でもね、あのときのあんこ、いそがしそうですぐ帰っちゃったの。それであたし、ひらめいたんだ。あんこがうちの隊にはいってくれれば、もっとあそべるって!」

 やちるらしい、実に可愛い理由である。
 しかし、それを最終的に認めたのが恐らく剣八、そして山本総隊長と四番隊の卯ノ花だろう。どのような理由で決定打を打ったのだろうか。

「では、更木隊長はどのような理由だったのでしょうか」

 そういえば、いつの間にか画面の歪みもノイズも消えている。

「……まあ、やっぱうちの隊に治療できる奴がひとりいれば便利だろうと思ったんだよ。それに、四番の奴らは戦闘が終わってから来るだろ? 俺が欲しかったのは、戦いの最中俺達と一緒に戦場へ行って、その都度治療が出来る奴だったからな」
「なるほど。しかし、戦闘中に藤嶺六席が出向くのはやはり危険なのでは?」
「俺が護るから問題ねえよ。それに、愛胡だって戦えなくはねえ。うちの中で一番鬼道が上手えからな」

 剣八は愛胡を護れると自信を持っているようだが、それと同時に彼女の強さも信じているのだろう。

「では、更木隊長にとって藤嶺六席は、たまたま現れた条件の当て嵌まる死神ということなのでしょうか」

 ルキアは、随分突っ込んだことを訊いてくる。この辺りも愛胡とは違う。

「そういうことになるな。だが、俺はこいつの霊圧の感じ方に興味を持った」
「それはどういうことですか」
「愛胡は、俺ややちるの乱れた霊圧を浴びても平気で立っていた。そのことに、興味が湧いたんだよ」

 剣八の霊圧となると、かなりのものだと想像出来る。
 自分はまだ相見える機会がないので彼の霊圧がどういうものか分からないが、噂によるととても強い霊圧であり、彼自身制御が苦手のようで、それを受けると立っていることさえ出来なく、力の弱い者だと気を失ってしまうことがあるという。
 やちるもまだ幼いとはいえ、伊達に副隊長をやっている訳ではないだろう。それなりに強い霊圧を持っていると考えられる。

「それは本当でしょうか、藤嶺六席?」
「あ、えっと、確かにあのときおふたりは、とても乱れた強い霊圧になったときもありましたが、私は元々耐性があるというか……それに、自分を嫌っているから霊圧が乱れている、ということではなかったので大丈夫だったんです」

 元々耐性がある、とはどういうことだろうか。
 しかし愛胡のその様子からすると、あまり触れてほしくないことのようにも見える。

「なるほど。十一番隊の、他より強い霊圧でも耐えられるのが、藤嶺六席の選ばれた理由のひとつなんですね」
「へえ、なるほどね」

 腕組みをしながら、紬が何度か頷く。
 彼女も詳しいことは知らなかったのだろうか。

「そんな藤嶺六席が異動してきてからは、今までの十一番隊とは違い、怪我の治療も健康診断も素直に受け、書類を回し、執務作業もしっかりと熟し、そして実際に、虚などの討伐による死者も、格段に減ったようです」
「うん、あんこがきてから、すっごくかわったと思うよ。それに剣ちゃんも!」
「草鹿副隊長、それはどういうことでしょうか」
「余計なこと言うな、やちる……」
「剣ちゃんね、あたしいがいにもあんこにやさしいし、だいじにしてるし、よくわらうようになったのっ」
「やちる黙れ」
「でもね、みんなすっごくかんちがいしてるとおもうけど、剣ちゃん、もとからすっごくやさしいんだよ!」
「やちる」
「むうっ」
「いいから黙れ」

 剣八がやちるへ腕を回し、その口を塞いだ。

「あっはは、剣八がやさしいとかマジウケるんですけどー」
「お前も一生黙れ」
「なるほど。更木隊長は、一般的には恐ろしいイメージのある人物でしたが、そのような一面もあるのですね。それが草鹿副隊長だけでなく、藤嶺六席に対しても発揮されると。十一番隊は、藤嶺六席のおかげで雰囲気が一新し、とても楽しそうでそして頼りになる隊です。更木隊長、草鹿副隊長、そして藤嶺六席が、まるで親子のように仲がいい隊のようですね」
「あっは、親子とかマジないわー。愛胡とやちるちゃんだけなら分かるけど」

 それにしても、今日はスムーズである。
 剣八本人がいるなら、いつも以上に何か騒動になるかとも思っていたが、意外にも大人しい。
 そして、慣れないながらも懸命に役目を熟すルキアの姿は好ましいし、今回の放送はなかなかいい回である。

「おい、いつまでこれやってるんだ? もういいだろ。こっちはまだ仕事残ってんだから」
「イヤイヤ、どうせ寝るつもりだろ。何一新されたイメージ守ろうとしてんだよバカが」
「一生黙ってろって言わなかったか?」

 一度画面が歪む。

「知らん。言ったとしてもおまえの言いなりになんかなるわきゃねえだろ」

 再び画面の歪みが酷くなる。耳障りなノイズも鳴り出した。

「お、おい、紬……」

 険悪なムードになりつつある雰囲気を察したルキア。

「あ〜あ、今回一番つまんなかったなぁ。愛胡とやちるちゃんはよかったけど、剣八がいる意味なかったわ」
「てめえ……」
「紬」

 愛胡の妙に落ち着いた声が聞え、カメラが彼女の方へ向いた。

「そういうこと言わないで。紬であっても赦さないよ」

 特段愛胡の眉がつり上がるというような表情ではないものの、静かなる怒りを体現しているようだった。

「ご、ごめん」

 愛胡の言葉に、紬は素直に謝ったのだった。

「じゃあ、今回はこれで終わりにするか」

 そこで画面の乱れは落ち着いた。
 僅かにしおらしくなってしまった紬が、放送終了を促す。

「あ、あと、私事ではありますが……」

 しかし、そこで愛胡が口を開いたのだった。

「先程、私がこちらへ異動したから十一番隊が変われたと説明してくださいましたが、これは私ひとりの力ではないんです。毎回この番組のカンペを担当してくださっている斑目三席や、十一番隊をまとめてくださる綾瀬川五席、そして十一番隊の全隊士の力があってこそなのです。私が十一番隊を変えたんじゃありません。皆さんにしっかりとそのような意識があるからなのです。だから十一番隊は、意志や結束力の強い隊なんです」

 少しだけ間が空き、愛胡がはっとして頭を下げる。

「あ、すみません、勝手に喋っちゃって」
「いや、やはり愛胡はすごいな」
「そ、そんなことないよ……」
「十一番隊に今でも居続けられているだけのことはある」
「うん、あんこ、これからもずっとここにいるもんね。ね、あんこ!」
「はい、ずっといますよ」
「あのね、あたしの夢はね、あんこと剣ちゃんがあたしのママとパパになることなんだよ」
「いや! それは流石に聞き捨てならんぞッ」

 愛胡と剣八がやちるの両親になるということは、それはつまりふたりが夫婦になるということだろうか。
 ふたりが恋人同士であることは、直接目の当たりにしたこのない平隊士である自分にも知っていることである。そのことに疑問はあるものの不満は勿論ないので、ふたりが夫婦になろうととやかく言うつもりはない。
 しかし、まだ子供のやちるのことだから、そこまで深くは考えていないかもしれない。

「やちるちゃん、悪いことは言わん。もう一度よく考えてごらん!」
「え〜、なんでぇ? あんこと剣ちゃんは、あたしのママとパパだもんっ」
「愛胡は分かるが、こんなのがパパとか人生終わっちゃうよ?」
「やだやだぁ! パパは剣ちゃんがいいっ」
「ぐぬぅ! どうしよう、この子」
「てめえ、さっきからうるせえんだよ」
「てめえは黙ってろタコ!」
「てめえが黙れ猿!」
「ちょっと、剣八さん! 紬!」
「ああ、ど、どうしよう……」

 乱闘が始まりそうな勢いの紬と剣八。
 慌てふためくルキアだが、何かに気付いたように下の方を見たのだった。

「ん? えっと、いつものようにケンカが始まるからここで終わらせろ? わ、分かった。えっと、それでは、今までとイメージを変えた十一番隊でした。また次回!」

 真剣な表情で真面目に番組を終わらせようとしたルキアだが、それでもカメラに向かって手を振る姿は、何とも可愛らしい。
 今回は、ルキアがとても好感の持てる人物だと云うことが分かった回だった。
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