Long Story2

□其の五
6ページ/7ページ

剣「そういえば俺」

修行の合間に、剣は紬へ言った。

剣「鬼道も上手くなりてえんだけど。あんた、鬼道もできるのか?」
紬「いや、あたしも鬼道苦手。こんなんならできるけど。縛道の六十二 百歩欄干!」

紬が技名を叫んだかと思うと、複数の光る棒を飛ばしてきたのだった。剣はそれを慌てて避ける。

剣「うおぉぉおおお!!」
紬「……チッ。全部避けたか」
剣「いきなりやってくんじゃねえよ!!」
紬「普通はいきなりやるもんじゃん」
剣「つうか、ちゃんと鬼道できんじゃねえか」
紬「いや、こういう簡単なものとかかっこいいものしかできない。詠唱とかメンドいし、全然覚えらんないもん」
剣「あとはなにができるんだ?いきなりやんなよ!?」

鬼道が苦手だという紬にも出来るものなら、自分にも出来るかもしれない。

紬「あとは……破道の三十三 蒼火墜」

蒼い炎が襲いかかってきたので、これまた必死で逃げた。

紬「縛道の一 塞」

途端に手足の自由を奪われる。

紬「オリジナル破道 紬デコピン!」

紬が人指し指を親指で弾くと、額に衝撃が襲った。
剣は、手足の動きを封じられているまま後ろへ倒れる。

剣「分かったからもうやめてくれ!てか最後のなんだよっ」

デコピンが地味に痛く、不覚にも涙が滲んでしまった。

紬「こんな感じで、簡単なヤツとかかっこいいヤツだけ覚えた。あ、百歩欄干とか蒼火墜はちょっと難しめだから、練習したぞ」
剣「どのくらい練習したんだ?」
紬「10年くらい」
剣「卍解収得並みかよ!!」
紬「いやあ、あたし、鬼道からっきしで」

紬が頭を掻く。
自分は早く卍解も収得したいのに、鬼道にまでそのような時間を費やしてはいられない。

紬「剣は鬼道、どのくらいなんだ?」
剣「全然できねえ」
紬「試しに赤火砲やってみ」

赤火砲は、霊術院1年目の講習で用いられる中級鬼道である。
剣は当時の自分を思い出し、言葉を詰まらせた。

紬「どうした?」
剣「それにいい記憶がないんだが」
紬「は?なんだよ。大丈夫だって。集中してやればなんとかなるし。ほら、紬ちゃんのワンポイントアドバイスで言っただろ。ゆっくり呼吸してやってみろ」

――まあ、あのときよりは出来るようになってっかな。あ、ヤベ、詠唱忘れた。

剣はとりあえず両手を前に翳して構える。

剣「……破道の三十一 赤火砲!!」

だんだんと赤い玉が出来始めるが、形が定まる前に爆発したのだった。

紬「ぶへぇ!!ゲホッゲホッ。おい、剣!マジメに……」

剣は、赤火砲の暴発によって真っ黒焦げになったのだった。

紬「ブハッ」

その瞬間、紬が壊れた玩具のように笑い転げた。
腹を抱えて地面を転がる紬。剣は顔を拭ってぼやく。

剣「だからできねえって言ったんだ……」

――クソ、いらん恥かいた。

紬「アハハハ!アハハ!アハハハハハハ!ヒイヒイ!おま、お前ッ……赤毛の兄ちゃんかッアハハハハハハハハ!」
剣「いつまで笑ってんだよ!」
紬「いや、ワリィ……まさか、赤毛の兄ちゃんみたいなヤツがいるとは……ッ」

涙を拭いながら立ち上がる紬。

剣「誰だ、そいつ」
紬「んあ?恋次だよ恋次。六番隊の。知ってるだろ?流石に」
剣「阿散井副隊長、だよな」

確かに彼は目立つ赤毛である。

紬「そそ。あいつもお前みたいにヘッタクソでな。まあ、集中すれば出来るようにはなってきたけど。まあ、あれだ。鬼道なら、あの人だな」

紬がひとり納得するように頷いた。

剣「あ?」
紬「じゃあ、明日は特別に、ここ集合にしてやる。あたしはその人を連れてくるから」
剣「誰なんだよ」
紬「それは明日来てからのお楽しみッ。しっかり気ィ引き締めて来いよ!」

ウィンクをして笑う紬。
何故だか嫌な予感が否めなかったのだった。




あとがき→
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ