Long Story2

□其の五
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一「ちょ、ちょっと待て。なんで俺がっ」
紬「いいじゃん、暇潰しで来たんだろ?剣で暇潰ししろよ」
一「だからって……」
剣「あんた、卍解出来てんだよな?」

確認で聞いてみた。
剣にとって、卍解が出来るか出来ないかはとても重要なことだった。

一「んなもん、とっくの昔に出来てるよ」
剣「何年かかった?」
一「3日だ」
剣「3日!?」

一護の言葉に、剣は驚愕した。
どんなに力のある者でも、卍解収得には長くて10年はかかると言われている。剣にとってそのような歳月などかけていられないが、3日という日数はあまりにも早すぎる。

剣「ウソだろ、どうやって……」
一「あんとき、夜一さんから道具を貸してもらってよ」
剣「道具?」
紬「おいおい、オレンジ!余計なこと言うなよっ」
一「え?」
剣「道具ってなんだ」

3日で卍解を収得出来る道具というのは、とても興味がある。それに、紬が慌てたことに違和感を覚えた。

紬「あ〜、メンドくせえから内緒にしとこうと思ったのに……」
剣「おい、オレンジ色。教えろ。その道具ってのはなんだ」
一「教えていいのか?」
紬「だめ」

一護が空気を読んだのか紬に訊くと、紬が首を振るった。

剣「なんでだッ。それがあれば3日で収得出来るんだろ!?」
一「まあ、俺は出来たけど……いや、でもあれかなり危険だぞ」
剣「危険でもなんでもいい!やらせろ!!」

紬が腕を組んで考えるが、やはり首を縦に振らなかった。

剣「なんでだ!!」
紬「確かに、あれを使えば3日で卍解を収得出来る。でもあれは、隠密機動の一番重要な特殊霊具だから、そうやすやすと使えない。それにもし使ったとしても、上手くいかなきゃそれっきり。二度は使えない。あたしが知ってるうちで、あれで卍解出来た奴は、このオレンジと浦原サンのふたりだけだ」
一「浦原さんも?」
紬「ああ。で、オレンジも言ったとおり、危険なんだ。そんなリスクがでかい道具をお前には使えない」

剣は言葉を詰まらせた。
つまり、その道具を使う許可が得られないほど、自分が弱いということ。
奥歯を噛みしめ、拳を握る。

紬「ま、お前はまだ平隊士なんだし、卍解にこだわらなくてもいいじゃん。それにこの修行で徐々に強くなっていけよ。な?」

もしこの修行で各段に強くなれたら、その道具を使えるのだろうか。
剣は、再度一護を見据える。

剣「――オレンジ色。俺と勝負しろ」

そう告げると、一護は溜息をひとつついた。

一「俺の名前は黒崎一護だ。まったく、しょうがねえな」

一護が背中に背負う斬魄刀の柄を握る。すると、刀身に巻かれた晒が解かれた。

紬「ふたりともがんばれ。あたしを楽しませろよ」

剣は、斬魄刀を両手で握る。
一護の霊圧が上がってくるのが分かる。それに呼応するように、自らの霊圧も上げた。
剣は深く呼吸するように努める。
一護が地を蹴り、剣も彼へ斬魄刀を向けたのだった。



一護の斬魄刀は、刀身が黒く身の丈程の大刀だった。通常、刀には鍔と柄があるが、彼の斬魄刀にはその両方が無い。
ひと言で説明するなら、その様は“異様”そのものだった。
始解もしない状態がそれなら、解放したら一護の斬魄刀はどんな変化を遂げるのだろうか。

剣「ハッ……ハアッ、やっぱ、強え!」

意識しないと、すぐに呼吸が荒くなってしまう。
一護は当然、呼吸が上がる素振りなど見せない。

一「まあまあ出来るじゃねえか。それに、たぶん霊圧だけなら一角の比じゃねえよ。流石剣八の息子だな」
剣「親父はっ、関係ねェ!」
護「お前も剣八みたいに、本気出したら霊圧すげえのか?」
剣「うるせえよ!!」
紬「剣は親父にすっげえコンプレックス抱いてるからな。あんま親父関係でいじんないでやってくれ」

離れたところで、紬が岩に腰掛けて眺めていた。
改めてそう言われると、なおさら頭にくる。

一「そうなのか?悪ぃ」
剣「うるせえよッ。黙れ!」
紬「あと剣は現在絶賛反抗期中だから。大目にみてやってくれ」
護「そうか、分かった」

紬がいちいち腹立たしいし、戦闘中であるにも関わらず一護が涼しい顔で紬と会話することも気にならない。
しかし、ここで怒りに任せていたら、以前の自分となにも変わらない。

――落ち着け俺!ゆっくり息しろ!

一旦一護から距離をとり、気持ちを落ち着かせる。
そうすると、一護も止まってこちらの様子を窺ってくる。

――クソ、余裕ぶりやがって……!

剣「おい、オレンジ色。始解くらいしたらどうだ」
一「だからそんな風に呼ぶなよ。あと、始解ならもうしてる」

一護の言葉に、耳を疑う。

――なんだと!?解号唱えたか?

思い出しても、一護が解号らしきものを口にした記憶などない。

一「正確には、こいつは常時開放型だ。だから、特別始解する必要もねえ」

常時開放型の斬魄刀は、世界広しと言えども、なかなか手に出来るものではない。
そういえば、剣にとって色んな意味で特別な存在である父親も、常時開放型と似たところがある。
確か「自分の霊圧がでか過ぎて、全力で抑え込んでも封印出来ねえから、封印自体してねえ」と、剣八は言っていた。
それでいて剣八には、ちゃんと始解があるらしい。常時開放型ではないにしろ、父親のそれも、なかなか珍しい逸品だ。
常時開放型の一護と、それに似た斬魄刀を持つ父。不覚にも剣は、二人が被って見えたのだった。

紬「な?オレンジってすげえだろ?流石主人公体質。あと、完現術も使えるだろ」
剣「フル……?」

聞き慣れない言葉に、眉を顰める。

紬「昔虚化とかもしてたし、地獄から力持ち帰ったし、滅却師の力もあるし。ほんとチート」

彼女の言葉から詳しいことは分からないが、剣の想像を遥かに超える能力が、黒崎一護にはあるという。

一「いや、俺だけの力じゃねえ。夜一さんや浦原さん、他の死神達や両親のお陰だ」

自らの能力を奢らないところも、彼の精神力の強さが垣間見れた。

紬「まあでも、お前のいる環境がよかったのもあるだろ。死神と滅却師の両親だもんな。それが原因で色んなものが連鎖して、起こって、会得して。本当にオレンジは、成長したよ」

珍しく神妙な面持ちで述べる紬。
しかし、そんな彼女へ一護が辛辣な一言。

一「いや、別にあんたにそんなこと言われる筋合いはねえけど……」
紬「なんだと!人が褒めてやってんのにっ。プンプン!激おこ!」

そして、いつもの紬に戻ったのだった。
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