Long Story2

□其の五
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剣「ここは――」
紬「勉強部屋だ」

声のする方へ目を向けると、そこに紬が立っていた。

紬「今日からここで修行する。やっぱここは広くてやりやすい」
剣「だったら最初っからここでやりゃあいいじゃねえか」
紬「いや、あたし、双殛の丘好きだし。眺めいいし」
剣「それだけの理由で……」
紬「昔はちゃんと双殛があって、かっこいいとこだったんだけどなぁ」

紬が、独り言のようにそう言った。

剣「つか、“双殛”ってなんだよ。今、あそこは別になにもねえとこだろ」
紬「ああ。あそこは、剣が生まれるずっと前に、双殛ってのが建ってたんだ」
剣「いや、だから双殛ってなんだよ。建物か?」
紬「いや、建物じゃなくて、なんつーか……なんか、木枠?矛とかあって」
剣「分かんねえよ」
紬「まあ、分かりやすく言えば、処刑台?こう木枠があってさ、そこに罪人をはりつけて、で、なんか斬魄刀何百万本分?くらいの威力がある矛がこう」

紬は両手を使って説明しだし、なんとなく理解できた。

紬「罪人を貫くの。でも、確かあのとき、あいつが壊したんだよな……」

思い出すように紬が呟いた。

剣「あいつ?」
紬「ああ、ほら、お前も名前くらいは聞いたことあるだろ?黒崎一護って」

――黒崎、一護?

そう言えば、両親からもその名を聞いたことがある。
そして、霊術院の授業にも出てきたような気がする。
かつて、罪人であるひとりの死神を救うため、現世からやってきたという、死神代行。
授業ではそう教えられたが、父親からは自分が勝てなかった二人目の人物だと聞かされた。
また母親は、黒崎一護のことを、仲間思いのとても強い人物だと言っていた。
そして、彼はオレンジ色の髪の毛をしていると教えられたのだった。

紬「まあ、バカみたいに強くて、主人公体質な奴。すっげえ主人公補正があって」
剣「はあ?」
紬「なにを思ったのか、双殛の矛を斬魄刀一本で受け止めやがって、挙句の果てにぶっ壊したもんなあ。マジヤベェ」
?「――それって、もしかして俺のことか?」

突然声がして、ふたりが振り向く。
そこには、死覇装を着る男性が立っていた。髪がオレンジ色である。

紬「うっわマジタイミングいいなお前!」

紬が彼に向って、親しげに声を掛ける。

紬「さっすが主人公!つかマジ久しぶりじゃん。元気してた?」
?「相変わらずだな、あんたは。で、こっちの目つき悪い奴誰だ?」
剣「あ゛ァ?てめえこそ誰だよ。ふざけた頭しやがって。まさか黒崎一護だなんて言わねえだろうな」
一「俺がその黒崎一護だよ。あと、これは地毛だ」

その言葉に、剣は目を瞠った。
まさか、最早伝説の人物として語り継がれる人物がこんなにタイミングよく現れるとは、考えられない。

剣「マジタイミングよすぎだろ……」
紬「だろ?ほんと、マジ主人公補正」
剣「てか、知り合いなのか、ふたりは」
紬「おう、ダチだぞ」
一「いや、大してそんな話したことねえだろ」
紬「はあ?なんでそういうこと言うの?一緒に風呂入った仲じゃねえか!」
一「は?もしかして、銭湯に行ったときのことか?別に一緒に入った訳じゃねえだろ」
紬「同じようなもんだろ」
一「いや違ェよ!」
紬「細かいこと気にすんな!男だろ!」
一「関係ねえだろ!」
紬「んんんんんやっぱりイマイチソリ合わねえな」
一「あんたが意味分んねえこと言うからだろ!」

ふたりのやり取りを眺める剣。
この黒崎一護という人物は、自分が思っていたイメージと大分違っていた。

一「で、こいつは誰なんだ?」
紬「ああ、こいつはな、聞いて驚け。なんとあの!更木剣八の息子だ!!」
一「なん…だと!?」

紬の紹介の仕方も一護の反応も、頭にくる。

一「ちょっと待て。剣八と……だ、誰のだ!?まさか、あのあんこって人とか?」
紬「そうそう。愛胡と剣八の子」
一「うわぁ、お前、剣八の悪いところしか似てねえな」
剣「はあ!?うるせえ!」
紬「あとこいつに妹もいるぞ」
一「マジかよ。なんかすげえな。あいつ、結婚もして子供もいるのか……」
剣「あんた、親父と知り合いなんだろ?」
一「ああ、昔戦ったことあるな」
剣「親父に勝ったって本当か?」
一「ああ、一回負けて、そのあともう一回戦って勝ったんだ。でもあいつ、すげえ強えよな。できればもう戦いたくねえ」

あの父親に、一度でも勝てたというのならば、彼は相当強いのだろう。

――戦ってみてえ。

一「ていうか、あんたらここでなにしてんだ?俺は暇潰しに来たんだけど」
紬「剣の修行だ」
一「修行?」
紬「なんか、親父より強くなりてえってさ。だからあたしがここで修行をつけてやろうとしてたんだ。卍解もまだできてねえし」
一「ふーん。なんか、俺と夜一さんみたいだな」
紬「そうそう!あたしも思った!」
一「いや、あんた、俺と夜一さんの修行見たことねえだろ!」
紬「あたしはなんでも知ってるぞ!」
一「あんた本当なんなんだよ!!」
剣「つうか、あんたこそなんなんだよ。修行の邪魔だ。どっかいけ」
一「ああ!?」
剣「なんだ?やんのかコラ」
紬「ああ、そうだ。お前らやっちゃえよ」
剣一「は?」
紬「丁度いい。オレンジ、剣の修行に付き合ってやれよ」
一「はあ!?」
剣「おもしれえ。俺もあんたと戦ってみてえと思ったところだ」

剣は早速斬魄刀を抜き、一護へ向けた。
しかし、一護の方は狼狽したのだった。
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