突撃!? 隣の十三隊♪
□おっさんと美人の八番隊
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八番隊の隊主室らしき部屋には、愛胡と紬以外に男性と女性がいた。
男性の方は、室内なのに笠を被っている。髪は長く、髭も伸びている。隊長羽織のようなものの上に、女物の桃色の着物を羽織っていて、とても風変わりだった。
女性は、眼鏡をかけた真面目そうな面持ちである。男性の柔らかな雰囲気とは違い、彼女は硬い雰囲気だった。
「こっちが隊長のおっさん!」
「おっさんて……どうも、京楽春水です」
「すみません、京楽隊長……。えっと、こちらが副隊長の伊勢七緒さんです」
「初めまして、伊勢七緒です」
京楽春水は、確かに一言で言うならおっさんだった。
「八番隊はねえ、なんだろ。普段ゆるいけど、やるときはやる、キメるときはキメるって感じかな?」
「そうだね、七緒ちゃんがしっかりしてるからね」
「隊長もしっかりしてください」
「えっと、ご覧の通り、京楽隊長はとても優しげな方で、伊勢副隊長はとても真面目な方なので、八番隊はとてもバランスの良い統率の執れた隊だと思います」
「おっさんはゆる〜いし、七ちゃんはかた〜いしね」
「私、そんなに硬いでしょうか……」
「大丈夫だよ、七緒ちゃんはパフパフ出来なくても、十分柔らかいから」
「な、何の話ですか!!」
七緒が顔を染めながら声を上げた。
本当に何の話なのだろうか。
「そういやおっさんて、笠とか女物の着物とか水色の帯とか髪飾りとかいろいろ装備してるけど、それらそろえるのに何Gかかるの?」
「何ゴールド?」
「京楽隊長、紬はおそらく、何環かかるかと言いたいんです」
「あ、ああ、そう」
「あ、それから斬魄刀2本に酒だろ。すげえな、おっさん。一体何回クエスト攻略してモンスター倒して稼いだんだ」
「えっと、愛胡ちゃん。紬ちゃんの言っていることが良く分んないんだけど」
「すみません。無視していいです」
「この着物とか結構高いんじゃね?」
「ああ、まあ、それなりにするけど、でもこの髪飾りの方が高いんだよ」
そう言って、京楽が自分の髪飾りを見せた。
小さいものだったが、カメラがそこに寄ってよく見えるようになる。
「うお、スゲエ。なんかちっせえ風車みてえだな」
「あ、ほんとうだ。かわいいですね」
そこには小さな風車がふたつついており、とても可愛らしい。
「なんかコレも女物っぽそうだけど、まさかおっさんってオネエなの?」
「そんな訳ないでしょ」
「あっ、イイコト思いついたッ」
不意に紬がぽんっと手を叩いた。
「え?」
「この髪飾り、七ちんにつけたらかわいいんじゃね?」
「えっ、私にですか?」
「うん、いいねえ。きっと可愛いと思うよ」
「じゃ、ちょっと貸しておっさん! 七ちゃん、髪留め取って!」
「ええ!?」
紬は京楽から風車の髪飾りをもらい、七緒の髪留めに手をかける。
「ちょ、ちょっと、紬さんっ!」
「じっとしてて! つけたげるから!」
「紬、乱暴にしちゃだめだよ」
「できた! ジャーン!」
紬に髪を結われた七緒。先ほどまではきっちりと留めていたが、今は下ろして前の方に垂らしているので、それだけで大分柔らかい雰囲気になった。
そして、風車の髪飾りをつけた七緒はとても女性らしく見える。
「流石僕の七緒ちゃん。可愛いねえ」
「だっ、誰が僕の七緒ちゃんですかっ」
「うん、かわいいよ七緒ちゃん!」
「とっても似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます……」
七緒は頬を染めて視線を逸らす。
最初の方よりとても近寄りやすい雰囲気になったと思う。
「で、結婚式はいつなの?」
唐突に紬が京楽へ尋ねた。
誰と誰の結婚式なのか。
「うん? 僕と七緒ちゃんとのかい?」
「もちろん」
「なっ!?」
「えっ? 京楽隊長と七緒さんって結婚するんですか!?」
「し、しません!! 何を言ってるんですか、隊長、紬さん!」
「僕としてはもうすぐにしたいんだけどね〜」
「た、隊長!!」
「ヒューヒュー! 七緒ちゃんヒューヒュー!」
「からかわないでください! 結婚なんてしません!!」
「七緒ちゃん、僕のお嫁さんになってください」
「ピュウ♪ おっさんカックイー!」
「わぁ、おふたりはとてもお似合いですよ!」
「や、やめてください、愛胡さんまで! そんな、私……」
顔を真っ赤にさせて動揺する七緒は、とても可愛らしかった。
しかし、まさかこのような番組の放送でプロポーズを見られるなんて驚きである。
「いやあ、でも、七緒ちゃんをお嫁さんにしたら、家のことも仕事のことも君に任せきりにしちゃうかな」
「で、お父さんジャマ! なんつってホウキで掃き出されちゃったりして。アッハッハッハ」
「アハハハハ」
紬と京楽が、愉快そうに笑う。
「全く……冗談も大概にしてください」
七緒は眼鏡をかけ直した。
何だか京楽のプロポーズが有耶無耶になってしまった感じで、少し残念である。
「というワケで、とっても仲良しこよしな八番隊でしたー。おっさん、珍しく愛胡にちょっかい出さなかったね」
「だって、更木くんが来てるしね。彼の前で愛胡ちゃんに手を出せるほど馬鹿じゃないさ」
「――ほう。俺がいなかったら愛胡に手を出してたんだな」
途端に画面にノイズが発生する。
「ひぃ」
カメラ外で悲鳴が聞こえた。
「いや、アンタもういい加減ウザいよ。いちいち出てくんなし」
紬がそう言うが、カメラに大きな影が映る。霊圧を乱れさせた剣八だった。
「い、いやあ、ほんの冗談だよ、剣八くん」
「さっさと帰るぞ、愛胡」
剣八が愛胡の腕を引っ張る。冒頭でもこのようなシーンがあった。
「ちょ、剣八さん! まだ放送終わってませんっ」
「もう終わっただろ。ここの紹介は済んだし」
「でもまだ……」
「このツンツンがクソウゼエからもう放送終了しまーす。とっても仲良しの八番隊でしたー」
「もうぜってえ愛胡に触んじゃねえぞ。てめえはいい加減伊勢だけにしてろ――」
カメラに背を向ける剣八以外、全員が複雑な表情の中、今回の放送が終わった。
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