Long Story2

□其の三
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ギリアンの虚閃を受けた愛胡。直撃は免れたものの、背中にかなり深い傷を負った。
剣八によって四番隊に運ばれ、そのまま入院となった。
意識が戻ると、自分がうつ伏せになっていることに気付く。背中の鈍い痛みと胴に巻かれる包帯の感覚で、ここが四番隊の救護詰所で、手当てをしてもらったことが分かった。

八「愛胡」

名前を呼ばれ、愛胡は安心した。

愛胡「――誰が、ここまで?」

八「俺だ」

愛胡「やっぱり、来てくれたんだね、剣八さん」

八「遅くなっちまったがな」

緩く首を振う。
剣八なら必ず駆けつけて助けくれると信じていた。

愛胡「剣は?」

八「知らねえ。だがまあ、大丈夫だろ。腹減ったか?なにか持ってくる」

愛胡「ううん平気。もうちょっと寝ていようかな」

安堵したらまた眠気を感じてきた。
目を閉じると頭を大きな掌で撫でられ、そのまま眠りについた。



愛胡が入院している間、更木家は三人だけになり、愛美にとって息苦しさを感じる日々だった。

愛「今日のご飯、どう?美味しい?」

八「ああ」

剣「ああ」

二人の声に覇気がない。
それに、二人の声が重なるといつもは必ず言い合いになるのに、その様子が見られない。

愛「…………」

――もっとおいしいご飯を作って家事をがんばらないとだめかな……。

愛美はそっと溜め息をついたのだった。
しんと静まり返る食卓で、急に剣が訊いてくる。

剣「――なあ。親父にとって、一番強え奴って、誰だ」

どういう意図でそのようなことを訊くのか、と愛美が顔を上げると、剣八は悩むことなく答える。

八「愛胡」

剣「っそういう意味じゃねえよ死ねクソ親父!!!」

八「んなこと訊いてどうすんだよ」

剣「…………」

八「てめえで思う強えヤツとやりゃあいいだろ」

もしかして、これが父なりの助言なのだろうか。
剣はそれきり一言も喋らずに食べ終えたのだった。



紬「タララン!タラーラーララーララン タララン!タラーラーララーララン ラーラーラーラーララララーララララー!」

剣「――やっと見つけた!!!」

よく出没するという瀞霊廷内を駆けずり回り、剣は漸く紬を見つけ出した。彼女にも修行をつけて貰えるよう、頼むつもりで探していたのだ。
紬は、立ち並ぶ店の前を陽気に歩いているところだった。

紬「お、剣じゃん。久しぶりー。愛胡元気?」

剣「お願いだ!俺を強くしてくれ、ババア――」

“ババア”と言った瞬間に、紬に鉄拳制裁され、あっという間にのされた。

紬「愛胡のハラん中からやり直してこい、クソガキ――」

紬がどすの利いた声で告げる。剣を殴った拳からは煙が出ていた。

紬「ほら、さっさと立って言い直せ」

剣「……お、親父に勝てるくらいに、俺を強くしてくれ――」

ふらふらと立ち上がり、紬へ述べる。

剣「っ紬……」

紬「紬??」

剣「……さん」

紬「さん??」

剣「……様」

紬「よし、おっけー!」

凄むように見つめてくる紬だったが、剣に言い直させて笑みを向けてきた。

――やっぱり、色んな意味で強えし怖えな、この人……。

紬「で、剣八より強くなりたいんだって?」

剣「ああ。誰にも負けねえくらい強くなって、親父に勝ちてえんだ」

紬「ムリだろ」

事もなげにあっさり否定する紬。しかも笑顔で。

紬「剣八はこのあたしでも認めた男だぞ。そんな、左陣の次に強い剣八に、お前が勝てるワケないだろー。アッハッハッハ」

なにを言っているのか理解出来ず、剣は絶句した。

紬「剣八に勝ちてえとか考えずに、テキトーに強くなればいいじゃん?」

剣「……それじゃあ駄目なんだよ。俺は、あいつを越えなきゃならねえ……」

紬「そんなに強くなってどうすんだよ?」

――強くなって、どうするの?

あの時の愛美の言葉を思い出す。
剣はすぐに答えられなかったのである。

――強くなって、それで……おふくろ達を…
…。

紬「別に勝てなくてもいいだろ」

剣「……あいつに勝てるまで強くなって、いろんなものを護るんだ」

紬「フーン……」

俯いて紬の言葉を待つ。

紬「――分かった。まあ、息子ってのは父親を越えてえって思うもんだよな!」

その言葉を聞き、剣は紬へ視線を向けた。
紬は、自信たっぷりに胸を張って見せた。

紬「あたしの特訓は厳しいぞ。泣き言は許さねえからな。分かったか?」

剣「ああ!!」




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