Long Story2
□其の三
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ギリアンの虚閃を受けた愛胡。直撃は免れたものの、背中にかなり深い傷を負った。
剣八によって四番隊に運ばれ、そのまま入院となった。
意識が戻ると、自分がうつ伏せになっていることに気付く。背中の鈍い痛みと胴に巻かれる包帯の感覚で、ここが四番隊の救護詰所で、手当てをしてもらったことが分かった。
八「愛胡」
名前を呼ばれ、愛胡は安心した。
愛胡「――誰が、ここまで?」
八「俺だ」
愛胡「やっぱり、来てくれたんだね、剣八さん」
八「遅くなっちまったがな」
緩く首を振う。
剣八なら必ず駆けつけて助けくれると信じていた。
愛胡「剣は?」
八「知らねえ。だがまあ、大丈夫だろ。腹減ったか?なにか持ってくる」
愛胡「ううん平気。もうちょっと寝ていようかな」
安堵したらまた眠気を感じてきた。
目を閉じると頭を大きな掌で撫でられ、そのまま眠りについた。
*
愛胡が入院している間、更木家は三人だけになり、愛美にとって息苦しさを感じる日々だった。
愛「今日のご飯、どう?美味しい?」
八「ああ」
剣「ああ」
二人の声に覇気がない。
それに、二人の声が重なるといつもは必ず言い合いになるのに、その様子が見られない。
愛「…………」
――もっとおいしいご飯を作って家事をがんばらないとだめかな……。
愛美はそっと溜め息をついたのだった。
しんと静まり返る食卓で、急に剣が訊いてくる。
剣「――なあ。親父にとって、一番強え奴って、誰だ」
どういう意図でそのようなことを訊くのか、と愛美が顔を上げると、剣八は悩むことなく答える。
八「愛胡」
剣「っそういう意味じゃねえよ死ねクソ親父!!!」
八「んなこと訊いてどうすんだよ」
剣「…………」
八「てめえで思う強えヤツとやりゃあいいだろ」
もしかして、これが父なりの助言なのだろうか。
剣はそれきり一言も喋らずに食べ終えたのだった。
*
紬「タララン!タラーラーララーララン タララン!タラーラーララーララン ラーラーラーラーララララーララララー!」
剣「――やっと見つけた!!!」
よく出没するという瀞霊廷内を駆けずり回り、剣は漸く紬を見つけ出した。彼女にも修行をつけて貰えるよう、頼むつもりで探していたのだ。
紬は、立ち並ぶ店の前を陽気に歩いているところだった。
紬「お、剣じゃん。久しぶりー。愛胡元気?」
剣「お願いだ!俺を強くしてくれ、ババア――」
“ババア”と言った瞬間に、紬に鉄拳制裁され、あっという間にのされた。
紬「愛胡のハラん中からやり直してこい、クソガキ――」
紬がどすの利いた声で告げる。剣を殴った拳からは煙が出ていた。
紬「ほら、さっさと立って言い直せ」
剣「……お、親父に勝てるくらいに、俺を強くしてくれ――」
ふらふらと立ち上がり、紬へ述べる。
剣「っ紬……」
紬「紬??」
剣「……さん」
紬「さん??」
剣「……様」
紬「よし、おっけー!」
凄むように見つめてくる紬だったが、剣に言い直させて笑みを向けてきた。
――やっぱり、色んな意味で強えし怖えな、この人……。
紬「で、剣八より強くなりたいんだって?」
剣「ああ。誰にも負けねえくらい強くなって、親父に勝ちてえんだ」
紬「ムリだろ」
事もなげにあっさり否定する紬。しかも笑顔で。
紬「剣八はこのあたしでも認めた男だぞ。そんな、左陣の次に強い剣八に、お前が勝てるワケないだろー。アッハッハッハ」
なにを言っているのか理解出来ず、剣は絶句した。
紬「剣八に勝ちてえとか考えずに、テキトーに強くなればいいじゃん?」
剣「……それじゃあ駄目なんだよ。俺は、あいつを越えなきゃならねえ……」
紬「そんなに強くなってどうすんだよ?」
――強くなって、どうするの?
あの時の愛美の言葉を思い出す。
剣はすぐに答えられなかったのである。
――強くなって、それで……おふくろ達を…
…。
紬「別に勝てなくてもいいだろ」
剣「……あいつに勝てるまで強くなって、いろんなものを護るんだ」
紬「フーン……」
俯いて紬の言葉を待つ。
紬「――分かった。まあ、息子ってのは父親を越えてえって思うもんだよな!」
その言葉を聞き、剣は紬へ視線を向けた。
紬は、自信たっぷりに胸を張って見せた。
紬「あたしの特訓は厳しいぞ。泣き言は許さねえからな。分かったか?」
剣「ああ!!」
蛇足→