突撃!? 隣の十三隊♪

□美形おっさんとキュートちゃんとアゴヒゲの十三番隊
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「さあ、ついにやってまいりました! 護廷十三隊最後の!」
「十三番隊です!」

 晴天の下、紬の輝かしい笑顔と愛胡の柔らかな笑みで今回の放送が始まった。
 思い返せば、本当に様々なことがあった放送シリーズであった。紬が暴走したり愛胡が泣いたりしたことがあり、更木が乱入したこともあった。
 それでも、毎回それぞれの隊の魅力は勿論、隊長や副隊長自身の魅力も伝わってきた、中々興味深い放送シリーズだったと思う。
 自分も以前、一度だけ収録の手伝いに駆り出されたので、少しだけこの番組に親近感を抱いている。

「どうも! 生きる伝説朝日向紬です!」
「解説の藤嶺愛胡です」
「いやあでも、今回ばかりはね、ちょっと心配」
「なんで?」
「浮竹のおっさんの調子がさ」
「おっさんって……」

 浮竹十四郎は隊長であるに相応しい程の実力の持ち主だと知っているが、しかし彼自身は病弱のようである。紬がいつものようにアポなし突撃をして、彼が寝込んでいたらどうするのか。

「大丈夫かな。元気かな」
「だから、今回こそはアポが必要だと思うんだけど」
「いやでも、やっぱアポなしは一貫だからさ」
「今日これから伺って、浮竹隊長の調子が良くなかったらどうするの?」
「う〜ん、ま、行ってから考えようということで!」
「大丈夫かな……」
「多分大丈夫! あたしのカンがそう言っている!」
「ほんと? まあ、紬の勘は妙に当たるしね」
「そいじゃ、ジャンプで行ってみよう! せーのッ」

 ふたりが元気よくジャンプをして、場面が切り替わる。

「よいしょっ」

 ふたりが着地したここは、十三番隊の執務室だろうか。いくつかの机の間に紬と愛胡の他、ふたりの男女が佇んでいる。

「じゃあ、訊いてみましょう! 清ちゃんとアゴヒゲのおっさん。ふたりの隊長は、今日は?」
「俺の隊長は雨乾堂(うげんどう)で休んでるぜ」
「私の隊長は雨乾堂で休んでるよ」

 ふたりは見事にハモったのだった。

「ん〜、やっぱりかあ。体調は悪い感じ?」
「そんなに悪いって訳じゃねえと思うが」
「でもあんまりご無理をさせられないからね」
「そっかあ、あたしのカン外れた?」
「また今度にさせてもらおうよ」
「う〜ん……ん? いや、大丈夫みたい!」

 眉を顰めていた紬だが、急に表情が明るくなり、何の作用か頭のアホ毛がぴょんと動いた。
 それから数秒と待たずに、ドアの開く音が聞こえた。一瞬にして、男女と愛胡、そして、画面に映っている隊士達が目を見開く。
 カメラがそちらの方へ向くと、そこには長い銀髪の男性がいた。

「やあ。やっぱり君達か」
「浮竹隊長!」

 男女の声が同時に聞こえた。

「何だか賑やかな霊圧がしたもんだから、気になってな。つい出てきてしまった。例の撮影か?」
「おう! おっさん、マジいいところにって言いたいとこだけど……大丈夫か? 元気っていうほどでもなさそうだけど」

 確かに浮竹の顔色は青白い。しかし、体調が悪いような喋りでもなく、朗々とした口調に聞こえる。

「何気、具合悪そうだし、また今度にするよ。体調悪いヤツに無理にお願いするほど、あたしゃ悪魔じゃないからね」
「いや、やろう」

 浮竹がそう言い切った。
 これがこうやって放送されているということは、十三番隊の撮影に成功したということだから、浮竹の返答はそれなりに想像出来ていたが。

「折角来てくれたんだ。また後日では手間だろう? それに、体調のことなら心配ない。実は少し良くなってきたところなんだ」

 本調子ではないが、悪いとまではいかないということだろう。
 何はともあれ、浮竹は心の広い男性である。

「おっさん……めっちゃいい人じゃね!? 知ってたけど!」
「そうだ! 俺の隊長はいい人だ!」
「そうだ! 私の隊長はいい人よ!」

 この男女は、先程から妙にセリフがハモる。

「浮竹隊長、本当に大丈夫なんですか? 突然来てしまったこちらが悪いんですし……」

 愛胡が申し訳なさそうに述べるが、浮竹は爽やかな笑みを浮かべたのだった。

「構わんさ。俺だって、ずっと寝込んでいては気が滅入ってしまう。いい気分転換だ」
「サンキューおっさん! じゃ、場所移動な」

 画面が切り替わり、水の涼やかな音が聞こえてくる。カメラが、外へ向きだしの通路を通っているようで、その先には水面に浮かぶようにして建てられた一室があった。
 そちらへ入ると、紬と愛胡の他、浮竹と先程の男女が一列に座っている。室内はそれ程広くはない和室で、隅には文机が置かれ、壁には趣のある掛け軸が掛かっていた。

「はい、ここは浮竹のおっさんの執務室兼お休むお部屋です。名前何だっけ?」
「雨乾堂さ」
「そうそう。自然豊かなところにあって、めっちゃ静かなところだし落ち着けるし、こんなところで休んでたら、おっさんもすぐ元気ハツラツになっちゃうよな!」
「そうだな」

 浮竹はとても愛想のいい受け答えをする、とても朗らかな人物だった。

「紬。さっきからおっさんって、失礼でしょ」
「いやー、俺はもうおっさんだからなー」
「そんなことないっスよ!」
「隊長はまだまだお若くて、それにすごく男前ですッ!」

 浮竹の両脇に座る男女の様子を見るに、浮竹は部下にとても慕われていることが窺える。

「あっはっはっは! そうか、ありがとう!」
「そう、この神に愛されたとしか思えんほどの美形で男前なおっさんは、ここ十三番隊の隊長、浮竹とうしろうです!」
「え?」
「嬉しい紹介をありがとう、朝日向。でも、俺の名前は十四郎(じゅうしろう)だ。日番谷隊長と名前が似ているから、間違われやすいかもしれないけどな」
「なん……だと!? ずっと『とうしろう』だと思ってた……おチビと同じ名前だと……」
「うちの隊長の名前、ずっと間違えてたのかよ!!」
「おっさんスマン〜! でもちゃんと覚えたからっ」

 両手を合わせて謝る紬。彼女は悪気があって浮竹の名前を間違えたとは思えないし、本気で申し訳なく思っていることも見て取れる。
 紬はよく冗談を言ったりふざけたりすることが多いが、それは人を傷つけようとしているものではないのである。
 浮竹は、そんな彼女へ嫌な顔をせずに尚も朗らかな表情を向けていた。彼の人柄の良さも窺える。

「もう、紬ってば……」
「うちの隊長は、心が広いんだぜ」
「さっきからやたらと暑苦しいこのアゴヒゲは、副隊長代理その1のコツバキです」
「暑苦しいは余計だが、俺が隊長を全力でサポートしてる、小椿仙太郎だ!」

 小椿仙太郎という男は、紬の言う通りアゴヒゲで頭にねじり鉢巻きをしている。

「あたしの方が全力でサポートしてるけどね」
「いいや、俺の方が全力でサポートしてるね!」
「そしてこちらが、副隊長代理その2の虎徹清音さんです」

 虎徹はショートカットの金髪で、死覇装の下に珍しい形の洋服を着用しているようで、三角の襟が出ていた。

「実は清ちゃんは、四番隊副隊長の虎徹勇音ちゃんと姉妹なのです! 言われてみれば、同じキュートな顔立ちしてるだろ?」
「きゅ、きゅーとってっ」

 紬の言葉に、虎徹が顔を赤らめて動揺する。
 虎徹は小柄で瞳も大きく、可愛らしい容姿をしている。

「いや似てねえし! 虎徹副隊長の方がでっけえだろ?」
「はぁ!?」

 いやらしい顔つきの小椿に、虎徹が食って掛かろうとする。
 虎徹勇音は、確かに身長の高い女性だったと思うが、小椿の発言は胸部のことを指しているのだろう。

「こら、仙太郎。その発言は、虎徹副隊長にも失礼だろう」
「すみません、隊長!!」
「女性の体に対してそのように言うのは、配慮に欠けるぞ」
「ヒュウm9(ゝ÷σ) 浮竹のおっさん、カックイー!」
「浮竹隊長は、とても穏やかで心優しい方で、何事に於いても的確に判断し、指示をしてくださいます」
「そうそう」
「少しお身体が弱いようなのですが、しかし驚異的な実力、才能を持つ、中身能力共に隊長に相応しい方なのです」
「その通り!」

 先程から思っていたが、小椿の声がやたらとうるさい。

「そして、さっきからやたらうるさいこのアゴヒゲおっさんは」

 同じことを言っている。

「副隊長がいない十三隊で、清ちゃんと一緒に隊長を全力でサポートしているようです」
「やたらうるさいは余計だ!」
「だってなあ、『やたらとうるさいアゴヒゲおっさん』としか言いようがないだろ? あ、あと、ねじり鉢巻きと変な髪型か」
「ほぼ悪口じゃねえか!!」
「悪口じゃねえよ。特徴を言ったまでだよ」
「あとこいつ、脇も臭いのよ」
「えー、お前、最低だな……」

 虎徹の発言で、紬が隣の小椿に対して引き気味である。

「クサくねえよっ。俺のどこがクセぇって言うんだよ!!」

 腕を上げてみせる小椿。少し、いや、大分鬱陶しい。

「おいやめろよーっ炭治郎だったら死んでるぞ!」
「誰だよタンジロウって!」
「まあまあ、落ち着け」
「あたしに嫌なことすると、わんちゃんが飛んできてコツバキなんかコテンパンだぞ」
「……あ、そういやお前、狛村隊長の……」

 そこで小椿が顔色を失う。

「割とガチだぞ。わんちゃんは、あたしガチ勢だからな」

 ガチ勢とはどういう意味なのか。

「怒らせたら怖いって思う存在がいるなら、調子乗らない方が身のためだぞ。テレビに映るっていうんで、テンション上がっちゃうのも分かるがな」
「さて、こちらの小椿さんは第三席でありながら、十三番隊の副隊長代理も務めていらっしゃるのですが」

 そこで愛胡が、空気を変えようと口を開く。

「ご覧の通り、とても溌剌としていて頼もしい方です。副隊長業務も併せてとても多忙だと思いますが、それを熟せる体力と能力を持っていることが見て分かりますね。そして、この方がいると、その場が一気に明るくなります」
「うん、全く以てその通りだ」

 愛胡の言葉に頷いたのは、浮竹のみだった。
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