突撃!? 隣の十三隊♪

□恥ずかしがり屋とかわいこちゃんの十二番隊
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「どうもー。伝説の美少女野郎、朝日向紬ちゃんです」
「解説の藤嶺愛胡です」

 技術開発局であろう建物の前で放送が始まった。
 今回は遂に、我らが十二番隊の放送日である。
 自分は今まで一番隊から欠かさず面白く観ていたのだが、自分の隊長であるマユリがこのような番組を了承するとは思えなかった。しかし、先日とうとう撮影クルーが押しかけてきて、マユリとネムのインタビューが叶ったと聞いた。
 今回の放送では、紬がどんな手でマユリの了承を得たのかも見物である。

「あのね、紬」
「なに?」
「一応訊くけどね」
「うん」
「涅隊長に今回のアポはとった?」
「ふふふ、今回も例外ではないよっ」

 紬が陽気にそう応える。
 そんな紬を見て、愛胡は渋い表情を作る。

「……今回ばかりは、私が自分でアポをとった方がよかったかな……」

 その方が確実だとは思う。
 しかし、だからといってマユリがそう簡単に了承するとは思えないが。

「いいんだってば、大丈夫だって! なんくるないさー!」
「え、何?」
「現世の沖縄の方言で、なんとかなるさーって意味!」
「確かに、今まではなんとかなってたけど……でも、涅隊長、本気で怒ったらどうするの?」
「そのときはそのときだよ」

 あっけらかんと述べる紬。それでも愛胡の表情は晴れない。

「でも……」
「大丈夫。あたし、マユリンより強いからさ」
「そういう問題じゃないでしょ」

 いくら紬が最強と自称していても、我らが隊長に敵う訳がない。
 ふたりが戦えば、きっとマユリがあらゆる手段を使って、確実に彼女を追い詰めるだろう。マユリは常に、誰も予想も出来ないような手を打ってくる人物なのである。

「あたし、よくここに来るから知ってるんだよね。こっちこっち」

 迷いなく歩を進める紬の後をついていく、愛胡とカメラ。
 紬の言う通り、彼女は日頃から隊舎や開発局によく出没する。その度に作業や研究が滞るのである。
 因みに自分は、局員ではなくただの十二番隊隊士なので、開発局のことはよく分からない。

「あのね、紬。ほんとに今更なんだけど、いつも忙しい隊長方に迷惑をかけるのはだめなんだからね」

 本当に今更だと思う。

「分かってるって。でもさ、何だかんだで受け入れてくれる隊長達の懐の大きさとか、なんかそういうのとかが分かっていいじゃん」
「それは……そうだけど」

 毎回彼女達の訪れに、各隊の隊長達が戸惑ったり驚いたりしているが、言われてみれば最終的には友好的にインタビューを受け入れていた。それが、紬の言う懐の大きさというものなのだろう。

「あ、ここ、ここ」

 ひとつのドアを示す紬。ノックをする素振りも見せずに、ドアノブへ手を伸ばした。
 しかし、紬がドアノブを握る前に開かれたのだった。

「お?」
「騒がしいと思ったら、やはり貴様かネ」

 聞き慣れた、耳に残る声が聞えてくる。
 カメラが移動してドアを開けた人物を映すと、そこには我らが隊長が立っていたのだった。
 マユリは、何とも形容しがたい顔かたちをしている。彼の容姿を言葉で説明出来るのなら教えてほしい。
 兎に角、彼は一度見たら忘れられない異様な出で立ちをしている。

「よ、マタドーラ! 1週間ぶりっ」
「お疲れ様です、涅隊長。突然すみません」

 紬が片手を挙げ、愛胡が丁寧にお辞儀をする。

「とりあえず中に入れてよ。ネムちゃんもいるよね」
「ほう。こぞって私の被験体になりにきたのかネ。それは感心するヨ」

 マユリは、常に健康な被験体を欲している。中でも、取り分けて紬に興味があるようである。分からなくもない。

「ううん、違うって。『突撃!? 隣の――』」
「用がないなら帰り給え」

 紬の言葉を最後まで聞かずに、マユリがドアを閉める。すかさずそこへ紬が足を挟み込んだのだった。

「聞けって。とりあえず入れてよ」
「朝日向貴様。何度言えば分かるのかネ。私の目の前で巫山戯けないでくれ給え」
「ふざけてないって。ただちょっとふたりに話を――て、あ! リンがなんか機械のところでお菓子こぼしてる!」
「何?!」

 紬がそう告げると、マユリが驚愕したように後ろを振り返る。
 リンとは、十二番隊隊士であり局員でもある壷府リンのことだろうか。彼と直接面識はないが、恐らく下っ端の局員だったと思う。
 しかし、いくら下っ端だからと言って、そう簡単に粗相をするだろうか。

「ほらそこ機械壊れてるよ! そっちもそっちも! あは、すげぇっ」
「リン、貴様!!」

 マユリが怒り、ドアから身を引いた。

「みんな今の内に入って!」

 マユリがドアから離れていったので、メンバーが室内へ侵入することが出来たようである。

「リン! どこ行ったリン! 朝日向、どこが壊れたって!?」
「ウソに決まってんじゃん」

 どうやら室内に侵入する為に紬が彼へ嘘をつき、そしてリンがそのダシに使われたようだった。

「嘘だと?」
「ねえ、ネムちゃんは?」
「朝日向。今日という今日は貴様を被験体にしてやろうか」

 マユリの静かなる怒りを感じる。恐ろしい。
 紬は怖いもの知らずにも程がある。

「や〜だよ〜」
「ちょっと紬……。涅隊長、突然申し訳ありません。少し、隊長と副隊長にインタビューをさせていただきたいだけなんですが」
「何度も言わせるな。私は暇じゃないんだヨ。特に今日は朝日向を漸く手に入れることが出来るんでネ。他の奴らはさっさと出ていき給え」
「あ、そうそう。あたしの身体は安かねえけどさ……」

 紬が徐に自身の胸元へ手を突っ込んでまさぐり出した。彼女の豊満な胸が、今にもまろび出るのではないかとわくわく、否、ひやひやする。

「タラララッタラー。紬ちゃんの切った爪〜〜」

 紬の特技のひとつ、声帯模写だろうか。急にガラガラ声を発してきた。
 誰の声なのかは分からない。
 彼女の手には、丸まった新聞紙が握られていた。

「昨日、丁度爪切ってさ。こんなのでいいならやるよ」
「……朝日向の……爪、だと?」

 すると、マユリの様子が変わる。

「あとついでに、ささ……ささ、れ? ささ……? あのここの指の皮むけ」
「ささくれ?」
「そうそれ! それもちょっとだけど入れといたから」
「皮膚……」
「あとは髪とかいる?」

 紬は、自分の髪へ手を差し込んで引き抜いた。人差し指と親指で5本程の髪の毛を摘まんでいる。

「はい、どうぞ。これでおk?」

 紬から丸まった新聞紙と髪の毛を手渡され、それを素直に受け取るマユリ。
 確かに、爪と皮膚と髪の毛からその人物の生態情報が詳しく分かるのではないだろうか。自分は局員ではないので、そういうことはよく分からないが。

「フ、フン。最初からこう素直になっておけばよかったのだヨ。少し待ち給え」

 紬から渡されたものを持ちながら、マユリが踵を返して部屋を出ていったのだった。
 彼にとって、それで十分だったようである。自分には、紬の爪などがどれほど重要なのか、いまいち分からない。
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