Long Story2

□其の三
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愛美は、真央霊術院に入ってから毎日死神になれるように努力している。
剣八は未だに杞憂をしているが、愛胡にとっては当時の自分を見ているようで、微笑ましく見守っていた。
霊術院に入って早々に斬魄刀と対話が出来たと話し、友人も出来たようで、愛胡は一先ず安心したのだった。
剣はというと、相変わらず朝晩問わず孤独な修行に明け暮れている。
ただがむしゃらにやっているように思えてならず、愛胡にとっては彼の方がよっぽど不安だった。
しかし、愛胡は戦えないし強くなるための修行をしたこともないので、なにも口出しは出来ない。唯一の頼みである剣八には、“自分はまだ必要ない”と言われている。
疎ましくされつつも弁当を作って持っていくことしか、今の愛胡に出来ることがなく、歯痒い。
卍解を収得したら勝負しろと剣八に宣言するが、いつになっても剣にその兆候は見られない。
いつしか剣は、苛立ちや疲労で、当然のように荒んでいった。

愛胡「ねえ剣、思うんだけど、その……そこまで卍解に執着しなくても、いいんじゃない?」

怪我を治しながら、剣に諭すように言う。

愛胡「お父さんだって、まだ始解も出来てないんだよ?」

八「それは今関係ねえよ」

剣「ああ、関係ねえ」

珍しくふたりの意見が合い、愛胡は少し驚く。

剣「俺はもっと強くなりてえ。その為には卍解が必要だ。始解のままじゃ話にならねえよ」

八「始解だけで弱えんなら、おめえ自身が弱えってことだろ」

剣「!」

愛胡「そうねえ……言われてみれば、剣八さんは始解がなくても十分強いし」

愛「ママそれ今言わない方が」

愛胡「えっ」

剣を見ると、奥歯をぎりっと噛みしめていた。
その悔しそうに表情を歪める剣を見て、失言したことに気が付く。

愛胡「あっ、そ、そう!お父さんなんて関係ないよね。だから、もうお父さんなんて気にしないで、自分なりに強くなったら?」

剣「っそれじゃあ意味ねえんだよ!!」

突然の剣の怒号に、目を瞠った。
剣は一瞬“しまった”と言うように視線を逸らしたが、しかし勢いよく立ち上がった。

剣「俺は、親父を越える為に強くなる。それ以外はねえ」

茶の間を出ていった剣の背中を見て、愛胡は呟く。

愛胡「また剣を怒らせちゃった」

八「いや、おめえは気にしなくていい。あいつが阿呆なだけだ」

愛胡「……いい加減、認めてあげたら?剣のこと」

八「それじゃあ意味ねえよ」

愛胡「でも」

八「俺が“強くなったな”なんて言っても、あいつは喜ばねえ。あいつ自身が、強くなったと感じなきゃ、意味がねえんだ」

愛「お兄ちゃんね、前、言ってたの」

愛美が口を開いてきた。

愛「お兄ちゃん、お父さんに勝ちたいから強くなるって。自分を護るために強くなるって。でも、強さってそんなに大事なのかな。強くなきゃだめなのかな……」

八「あいつは強さでしか自分を認められねえ。まだ視野が狭めえんだ。あいつも、自分の強さってヤツを見つけたら、気付くだろ。
だが、なにも強さだけが大事って訳じゃねえ。愛美は、自分のやりたい通りにやればいい。強さなんざ、二の次でいいんだ」

本当は分かっていないのに、愛美を温かく見守る剣八。その父親らしい眼差しと心に、愛胡は自然と笑みを零す。
愛美も、嬉しそうに剣八へ微笑んだのだった。
愛美の死神になりたい本当の理由を知って剣八が狼狽えるのは、もっと先の話である。
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