Long Story2

□其の二
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八「帰ったぞ」

仕事を終えた剣八が、台所へ顔を出した。

愛「おかえりー」

愛胡「おかえりさない」

愛「お兄ちゃん、また遅いの?」

この頃剣の帰りが遅い。丁度、新入隊士達への説明会があった日以降からだろうか。
たまに剣八と共に帰ってくる日はあるが、大抵は遅かった。
愛胡が訳を訊くと“何でもねえ”と返してくるので、剣八に様子を見に行ってもらうと、ひとりで修行をしているらしかった。
剣八には“勝手にやらせておけ”と言われたので、とやかく言うことは出来ない。けれども、やはり心配だった。自分の息子だから、無条件に憂慮してしまう。

愛胡「今日も遅くなるんだったら、おにぎりでも持っていこうかな」

八「腹が減りゃあ勝手に帰ってくるだろ」

そう言い残し、剣八は汗を流しに行った。
愛胡は、愛美と夕食の用意を再開した。


三人で食卓を囲っているとき、愛美が口を開いた。

愛「ねえ、パパ。私、死神になりたいんだけど」

まるで“私、和菓子屋さんになりたい”と将来の夢を告げるかのような言い方。
そして、もう一言畳みかけるように言う。

愛「できれば十一番隊に」

剣八の動きが止まる。
十一番隊には自分も愛胡も剣もいるから、その辺りは安心だろう、と一瞬の停止で考えたのだろう。
しかし、考え直したように訊く。

八「なんで死神になりてえ」

愛「え、なんでって言われても、かっこいいし、あこがれるし、それに、かく……っあ、えっと、とにかくなりたいなって」

八「かく?」

愛「なんでもないのっ」

不自然に切った言葉に剣八は首を傾げるが、愛美は頬を染めて遮った。
その意味を知る愛胡は、ひとりで笑んだ。

愛「とにかく! 死神になりたいならパパに相談してみなさいって、ママが言ったから」

八「それは、俺が認めねえことを知った上で言ったのか?」

剣八が、こちらに向けて訊いてきた。

愛「認めてくれないのっ?」

愛胡「パパなら分かってくれるからって、愛美に言ったの」

八「俺は、おめえが死神続けることすら、まだ納得いかねえんだぞ」

愛胡「それはもう終わった話でしょ。私にはまだまだ働ける体力もあるし、みなさんの傷を治したいっていう気持ちもあるから」

そう告げると、剣八が言葉に詰まった。

愛胡「でも愛美、まだ斬魄刀と会ってはいないんだよね?」

死神になるきっかけは、霊力を持っていることと、斬魄刀と出会って対話をすること。それが、死神になるための最初の条件である。

愛「うん、まだ。でも、斬魄刀と会えたら、真央霊術院に入れてくれる?」

しかし、愛美には霊力こそあるものの、それをコントロールする才能の素質が見られない。興奮すると自然と霊圧が上がり、それを元の状態に戻すまでに相当な時間を有する。
剣八に至っては、霊圧を細かく扱えずとも力を誇っている。しかし、死神になる以上、少なからず霊力を自由に扱えた方がいいと、愛胡は考える。

八「そんな何時になるかもわからねえ話、わかったとは言えねえな」

愛「……じゃあ、斬魄刀と会えなくても霊術院に入れて。入ったらできると思うから」

八「そんな簡単なもんじゃねえぞ」

愛胡「パパなんて、斬魄刀とまだ対話も出来ないんだよ」

愛「そうなの?」

八「余計なことを言うな。とにかく、俺は認めねえぞ」

愛「なんで!」

八「なんででもだ」

愛「私も角ちゃん達と一緒に戦いたいのに……」

八「なんでそこで一角の名前が出るんだよ」

俯く愛美に、剣八は不思議そうに目を向ける。

愛胡「剣八さんって、本当に相変わらず」

くすりと笑うと、剣八に怪訝そうに見られた。

愛胡「愛美、パパがだめなら山本総隊長にお話してみようか」

愛胡にとって山本は父親のような存在だから、愛美にとっては祖父のような存在で、剣共々可愛がってもらっている。
そんな山本に相談をすれば、剣八よりは話を分かってくれそうである。

愛「うん!」

八「困った時に爺の名前出すのやめろよ……」

その後、いつものように談笑しながら夕食をとった。
剣八が最初に食べ終わり、自分の食器類を流しへ持っていくときだった。
玄関の戸が開く音がして、三人は顔を上げる。

愛胡「帰ってきたかな」

“ただいま”などと決して言わないが、漂う霊圧から剣だと思って愛胡は玄関へと向かう。

愛胡「――剣?」

剣の様子がおかしいことに気付く。
彼は右腕を押さえており、身体も傷だらけだった。

愛胡「剣、怪我してるのっ?」

剣「うるせえ」

そのまま隣をすり抜けようとする剣を引きとめる。
てっきりひとりで修行をしているものだと思っていたが、このような怪我をしていたとなると、誰かとやっていたのだろうか。

八「どうした」

愛「お兄ちゃん、ケガしたの?」

愛胡「誰かにやられたの? 傷を見せて」

剣の肩に手を置いたが、振り落とされる。

剣「うるせえ。なんでもねえよ」

八「治す必要なんざねえぞ。その怪我はてめえが弱ェ証拠だ。消したら意味がねえ」

剣「…………」

台所の入口にいる剣八を睨みつける剣。しかし、視線を外して奥へ行こうとする。自室に行くつもりだろうか。

愛「お兄ちゃん……」

愛胡「剣、治すからこっちに来なさい」

剣「いらねえよ」

愛胡「剣。言うことをききなさい」

少し強めに言うと、剣は諦めたようにして向き合う。今度は剣八も、黙ったままこちらを見つめるだけだった。
剣を見上げると、顔にもいくつもの傷がついていた。
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