紫の扉の向こう側
□Xworld
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Firstepisode.血塗られた少女
「……ツナヨシ?」
ザンザスが呆然と呟いた。
注がれる目線は目の前のフードを目深に被った少女に注がれる。
「俺は『ツナヨシ』じゃないよ…私は『ソラ』」
少女は口元だけをゆっくりと綻ばせた。
だがその優美な表情も目が見えないせいか酷く悲しげな物だった。
「…『ソラ』。何があった」
厳つい表情を更に厳しくさせてザンザスが『ソラ』を見やる。
だが『ソラ』は小心者なら卒倒してしまいそうな表情を笑って受け流し、表情を重い物に変えて気まずげに言った。
「…ツナヨシは死んだ」
コートの端をぎゅっと握りしめるソラ。
その手には痛々しいほど深い切り傷が刻まれていた。
「っ…おいドカス共!!!」
それを見たザンザスは折半詰まったような表情で部下を呼んだ。
「なによぉ〜…っ、ツナ、ちゃんっ…!?」
真っ先にネグリジェ姿でやって来たルッスーリアは目の前に佇む少女に息を呑む。
「…ルッスー…ううん、ルッスーリアさん。私はツナじゃないよ」
儚げな仕草に何を悟ったか直ぐにルッスーリアはソラのコートを脱がす。
そして再度息を呑んだ。
「…っ、こんな、なんでっ…」
ソラの白い肌に深く深く刻まれた切り傷と傷痕。
彼女の真白いワンピースは血が濃く滲みそのワンピースさえ所々切られている。
左胸を撃たれたらしく胸からは血が止めどなく流れ落ちている。
此処まで来れたのが不思議なほどだった。
「ボスぅー。こんな時間に何かっ…て、姫ッ…!?」
「ドカスじゃねぇぞぉ…っ、ツナヨシッ!?」
「僕を呼び出したからには高くつく…ツナヨシ!!!」
「綱吉さんっ…!?」
四者が目線を注ぐのは傷だらけでぼろぼろのソラ。
「ツ…ソラ。何故まだ生きて居られる?」
ザンザスの言葉にソラが淡く微笑む。
「私の能力、知らない訳じゃないでしょ?」
「…愚問だったな。おい、ドカス共!こいつを応急手当しろ!その後緊急治療室に運べ!」
指示はあくまでも的確に、迅速に。
でないと一つの儚く美しい、彼等にとってかけがえのない少女の命が散る。
スクアーロが直ぐ様駆け寄りソラの華奢な体をソファに寝かせる。
黒いソファが血により赤黒く染まるのも見返らずスクアーロはソラに包帯を巻いて行く。
が、白い包帯は真紅により三秒と持たず使いものとならなくなる。
マーモンが念力を行使しソラの状態を見て行く。
「ダメだよ、応急手当なんかじゃどうにもならない。骨が五、六本折れてるし太いのから細いのまで様々な血管に傷がついてる。心臓にも傷が入ってるし、肺も結構ヤバめかな。とにかく一刻も早い治療をお勧めするよ。」
マーモンにしては焦った早口。
十二の少女にするとは思えないほど酷な仕打ち。
ふわりとマーモンが念動力でソラを浮かせ、緊急治療室に運び入れる。
ベルフェゴールとレヴィが人員の確保を急ぐ。
部屋の汚れも、血の染みも、何も気にならない。
ただ彼等の目には死に急ぐ愛しい少女の姿のみが映っていた。
「死ぬんじゃねぇぞ、ソラ!」
ザンザスの声。
焦った表情にソラが安心して、と言う様に笑い、そのまま意識を闇に染めた。
呼吸法は喘ぎ呼吸。
小刻みで小さな呼吸。上にその青白い顔色。
彼等が慌てないはずが無いのだ。
運ばれて行く少女の姿が扉に拒まれ見えなくなる。
「…姫、死なないよね」
ベルフェゴールの落とした呟き。
それに答えたのはザンザスが柱を殴った音。
「死ぬ訳ねぇだろ、あいつは『生の女神』だ…!」
亀裂が入った壁。
それを意識に止める者は存在しない。
「ツナヨシ…君は回復を司る女神でしょ?女神がそんな風に死ぬなんてお笑いだよ?」
マーモンが使用中と書かれた赤ランプを見つめて吐き出すように言う。
「お願いだからもう一回笑ってよ、ツナヨシ…!!!」
祈るように眼前で組まれた指。
神頼みなんて柄じゃない。
だが今頼れるのは神しか居ない。
(僕の、僕の女神を連れていかないで!)
死にかけた『最愛』の側に行く事すら許されない自分がもどかしい。
ただ彼等にできるのは必死に祈る事のみだった。
Firstepisode.
血塗られた少女
完結
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