頂き物
□七夜様から(相互リンク記念)
1ページ/2ページ
切っても切れない
「お前、支部長の息子だったんだな」
俺の言葉に、石像か観葉植物みたいに微動だにしなかった小さな体から、殺気にも似た激しい怒りの感情が湧き出した。
「関係ない」
冷たく言い放った顔は、本当に、嫌そうで何だか笑えた。
俺の家族は、姉上だけだ。親父は軍属で、俺がまだガキの頃にアラガミに喰われて死んだ。
おふくろは、つい最近、やっぱりアラガミに食われて死んだ。
俺と姉上を育てるために必死に働いてくれたおふくろだけど、俺は顔をあまり覚えていない。
だから、俺の家族は姉上だけで、血縁関係はないけど幼馴染のサクヤだって俺の家族だ。
俺にとって、家族ってのは大切な存在だけど、人によってこうも差があるのかと想うと、不思議な気分だ。
「関係ない、か」
別に、コイツの家庭がどんなに複雑化なんて噂はこのアナグラにいりゃイヤでも聞こえてくるし、娯楽の少ないこの世界で、ソーマはカッコウの餌食だろう。
しかも、ソーマが反論しないこともあってか、尾びれどころか背びれに胸びれまでつく騒ぎだ。
俺の言葉に、ソーマはそれ以上反応しなかった。なんだかそれが無性に淋しい気がして、俺は煙草を取り出して一本を咥えると、火を点けた。
「でも、切れないんだよな」
作り物めいた顔は、瓜二つとは言わないが、よく似ている。
初めて、支部長室に呼ばれたあの日、それまで漠然と、ぼんやりとした存在でしかなかった支部長が、俺に触れた。あの時の顔を、俺は今でも直ぐに思い出せる。
「くだらない、時間だ、行くぞ」
時計を確認すれば、ミッション開始時刻丁度で、どんな体内時計だと驚かされる。
重量級のバスターをまるでショートみたいに軽々と持ち上げるソーマを、俺はなんだか無性に抱きしめたくなった。
支部長が、俺を抱きしめたみたいに。
俺だって別に器用なほうじゃないけど、あそこまで不器用じゃない。
自分の子どもに触れたいと言う、親の顔をした支部長に、俺は写真すらなくて記憶にもない親父の記憶を呼び起こさせられた。
覚えているのは、俺がせがむと肩車をしてくれたこと。背が高い人だった。
「ソーマ」
それは、もう衝動的だった。
俺は後ろから小さなソーマの体を抱きしめた。姉上がしてくれるように。
別に、支部長の気持ちを伝えてやりたいとか、そんな気持ちからじゃない、いや、多少なりそんな気持ちもあった気がするけど…。
ただ、何となく、折角の家族を、「関係ない」って一言で切り捨てないで欲しいと想った。
価値観を押し付ける気はないが、それでも、少しでも、気付いて欲しかった。此の世界が、お前が言うほど「クソッタレ」じゃないってことを。
「放せ」
振り払われるかと想ったけど、ソーマはただ短くそう言い放ってそれ以上は何もしない。
そのことに少し安堵して、俺はソーマを放した。
「さ、行くか」
「お前のせいで3分ロスした」
嫌そうな顔をするソーマの顔が、妙に歳相応に見えて、俺は煙草を踏み潰して視界に飛び込んできたアラガミに神機を振り落とした。