仔狐シリーズ

□06.5
1ページ/1ページ




 泣き声が聞こえた。

 一人の少女の泣き声だ。

 少女の前には、一人の青年が立っていた。

 青年は泣いてる少女に向け、静かに語り出かした。


『今、キミの目から流れているモノが《涙》だ』

『今、キミがしていることが《泣く》という行為だ』

『今、キミの中にあるソレこそが《悲しみ》だ』


 少女は泣きながら、青年の言葉に耳を傾ける。

 青年は泣きじゃくる少女に向けて、語り続けた。


『苦しいだろう?』

『辛いだろう?』

『逃げたしたいだろ?』


 青年の問いかけに、少女は小さく頷いた。


『でも、キミはもっと苦しまないといけない』

『その辛さを避けてはいけない』

『決して、今の状態から逃げ出してはいけないんだよ』

『その理由は分かるかい?』


 少女は必死に訴える様に首を左右に振った。


『それはね−−キミは知らなければならないからだ』

『キミは、知って、理解して、受け入れないといけない』


 青年はその場にしゃがみ、少女と目線を合わせた。


『キミには、まだ知らないことがある−−知らないといけないことがある』

『それは《知識》じゃなくて《感情》だ』

『こんな欠陥だらけな僕が偉そうなことを言うようだけれど、これだけは言わせて欲しい』

『キミは、まだ間に合う』

『間に合うんだよ』

『だから−−』

『最強でも、最終でも、最悪でも、最弱でも、天才でも−−ましてや《お人形》でもない』

『−−キミは、キミに成ればいいんだ』


 青年は腕を伸ばし、少女の細く小さな身体を包み込んだ。


『大丈夫……大丈夫だよ』

『だから、今は思いっきり泣けばいい』

『泣いて泣いて泣いて泣いて、それから泣き尽くして』

『キミは、キミを見つけてくれ−−××××ちゃん』




.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ