折原兄シリーズ

□二日目・前
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俺と学校祭 二日目・前


 翌日。
 学校祭二日目の早朝。
 紆余曲折はあったものの、一晩かけて本日出す商品の予定数を作り上げた俺と調理班(男子限定)は、早めに登校してくれた女子達に諸々の準備を任せ、運良く借りる事が出来た控え室で仮眠をとっていた。
 むさい男共に囲まれて寝るのは正直遠慮したいのだが、そんな贅沢も言ってられない。
 あてがわれた教室に着くなり、次々と雪崩れ込むように倒れる男子達。
 汚いから床に寝るなよ−−と思いつつ、俺は適当に椅子を合わせて作った簡易ベッドに寝転がり、直ぐに夢の世界に旅立った。
 −−筈だったが、日頃の習性とは恐ろしい。
 結局、仮眠に入って一時間程経った頃(毎日の起床時間より一時間遅い)に、自然と目が覚めたのだ。
 何度か二度寝をしようと試してみたが、逆にすっかり目が冴えてしまった。
 その時点で諦めのついた俺は、準備の手伝いをするため空き教室から出た。
 途中、顔を洗うために立ち寄ったトイレで鏡を見たが、思った程疲れは出ていない。

 若いって、すげー




***





 所変わって、調理室。
 いつもの登校時間より早く集まって調理班の女子と合流した俺は、喫茶店で出すメニューの最終的な準備を進めていた。
 今回出すのは、昨夜大量生産していたクッキーなどの焼き菓子系や簡単な飲食など、学祭にしては結構なレパートリーがある。
 宣伝班の仕事のおかげか、事前に販売していた前売り券の方も思っていたより好評で、早朝にも関わらず皆の志気も高い−−この分だと予定通りにいきそうだ。

「お、折原くん!あとは私達でやるから、教室の方お願い」

「え、でも今の時間は女子が着替えてるんじゃ……?」

「さっきみんな着替え終わったってメールきたの!」

「そっか、分かった」

 今はちょうど八時半。
 タイムテーブルでは接客班の女子達が着替る時間だが、予定より早く終わったらしい。
 みんな、今日が楽しみで早く登校してきたのかもしれない。
 教室の準備も早いに越したことはないので、俺は「何かあったら寝てる男子を叩き起こせ」と伝えてから教室へ向かう。
 その途中、携帯電話(学校祭準備時は校内での使用が許可されている)を取り出して新羅の番号にかけた。

『−−あ、おはよう梓』

「おはよう。あいつら起きたか?」

『うん。妹さん達はご飯食べ終わったよ』

『臨也は?』

『今、部屋で着替えてる』

 キミのベッドで寝てたのには大いに笑わせて貰ったよ!
 そんな新羅の言葉に、俺はこっそり溜め息を着く。
 この年になっても弟は、俺のベッドで寝ている時がある。
 二段ベッドなんだから、面倒臭がらず自分の所で寝れば良いのに……

『そうそう、僕の朝食も用意してもらって悪いね』

「いや、家族のも作ってるから、たいして手間もかかんないさ。それより……ちゃんと臨也は連れてきてくれよ?」

 −−まあ、弟のシフトは午後からなので、最悪午前中はサボっても大目に見る。

『ちなみに、もし行かなかったら?』

「今後一ヶ月、俺はあいつの食事を作らない」

『おっけー、伝えとく』

「じゃあ、よろしく」

 最後にそう言って、俺は通話を終えた。
 新羅を自宅まで迎えに行かせ(代わりに朝食を提供)これだけ条件を付けておけば、あの弟も観念して登校してくる−−筈だ。
 せっかく平和島ともシフトをずらしたんだ、割り振られたノルマ分は働いてもらわないとな。

 俺は教室の前に着くと、念のため一度扉をノックをする。
 まだ着替えている子が居たとして、覗き魔の汚名を着せられるのだけは避けたいからだ。
 ノックのあと、中から井上の声で入室許可が無事に下り、いざ扉を開く。
 −−が、その直後。
 俺は自分の行動を後悔したのだった。




***





「お帰りなさいませ、ご主人さま!」

「オレンジジュースと珈琲でございますね。少々お待ちくださいませ」

 学校祭二日目が始まった。
 今日は一般公開日
 そのため現在の来神高校には保護者や他校生・受験を視野に入れた中学生や近隣住民などなど、色々な年代の客が集まっている。
 我らがD組の模擬店も客入りは上々で、最初こそ緊張していたメイド役の女子達や裏方担当の男子達も、みんな忙しく動いていた。
 店の運営も、ここまで目立ったトラブルもない−−理想的なスタートだった。

 ・・・・・・・・・・・
 ある一点を除いたら−−

「い、いらっしゃいませー」

 教室の外に設置した受付で、客引きをする一人のメイド役がいた。
 腰まである黒い髪。
 他のメイド達と同じ衣装を身に付け、足には黒のニーハイを着用。
 唇に桜色のリップ、頬に薄紅色のチークなど、ほんのりナチュラルメイクが施されている。
 背が平均よりも些か高いが、誰が見ても普通の《女の子》がそこにいた。
 −−否。

 それは悲しいことに、女装した俺、折原梓だった。


 ……どうしてこうなった!?










「あ、臨也。さっき梓から電話があったよ」

「!?」

「キミが起きてるかの確認だけだったけど」

「お、俺にはモーニングコールすら無いのにっ……梓の浮気者っ!もういい、今日はサボr−−」

「あと、シフトサボったら一ヶ月間は臨也のご飯作らないってさ」

「…………」

「(本当に面白いなー)」



.


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