折原兄シリーズ

□俺と最悪なハロウィン
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俺と最悪なハロウィン

※成人後、二人暮らし中
※珍しく強気な臨也と、されるがままな兄
※いつもよりピンク色注意



「……ただいま」

「おかえり−−って、は?」

 だいぶ住み慣れてきた現在の住居である高層マンションに帰宅すると、広いリビングで出迎えた弟は俺の姿を見るなり固まった。
 それもその筈−−
 部屋にたどり着くまで被っていた帽子を取った俺の頭には、通常の人体ならば有り得ない−−所謂《猫耳》が生えているのだから。




***





 遡ること数時間前−−
 俺はセルティに誘われて新羅の自宅に居た。
 家主である友人は数日程自室に籠もって何やらしていたらしく、俺が訪ねた時にはリビングのソファーで爆睡中だった。
 セルティも、何をしていたのかは知らないらしい。
 まあ新羅の奇行は今に始まった事ではないので、それに慣れきっている俺達は特に気にするでもなく、会話に花を咲かせていた。
 途中で出された紅茶が、何やら珍しい香りがするくらいしか変わった事は無い−−筈だった。

 突然の眠気に襲われ、意識を失うまでは−−




***





「−−で、起きたら頭に猫耳が生えてたの?」

 未だに信じられないと表情で訴えながらも、弟の視線は俺の頭に生えた猫耳に釘付けらしい。
 その後−−目を覚まして自分に起きた異変に気付いた俺は、新羅を叩き起こして説明を要求した。
 以下が、今回の件について判明した事である。

・俺が紅茶だと思って飲んだのは、新羅の父親の会社で作られた物らしい

・息子へのハロウィンの悪戯として郵送されたそれを、新羅が開封したままキッチンに放置

・何も知らないセルティが、茶葉と勘違いして俺に出した

・急ぎ岸谷父に確認したところ、効果は長くても一〜二日で消える

・後遺症はない

 −−と、言う事らしい。
 うん、とりあえず岸谷親子は俺に謝れば良いと思う。

 そして家に帰ろうにも、人前に出るには憚られる姿なので困っていると、全く悪くないのに責任を感じたセルティがバイクで送ってくれた。
 ついでに影でヘルメットや帽子を造ってくれたので、俺の猫耳が衆目に晒される事態は避ける事に成功したのだ。
 −−ありがとう、セルティ!
 お礼は何にしょうかと思案していると、目の前の弟が妙に落ち着き無い事に気付く。
 何やらソワソワとしていて、まるで我慢でもしている様子に、俺は首を傾げ「臨也、どうした?」と尋ねた。
 すると−−

「あぁ、もう!我慢できない!」

「ぬぉっ!?」

 きなり抱きついてきた弟を受け止める準備など出来ていなかった俺は、見事にフカフカのソファーへと押し倒されてしまった。
 しかし弟はお構いなしにと、目を輝かせながら両手を俺の頭上に伸ばし、猫耳を触り出す。
 それはもう−−遠慮なく。

「何これ、本当に猫の耳みたい!毛並みは梓の髪と一緒だね!」

「う、あ……いざ…」

「体温もあるみたいだし、さっきからピクピク動いて可愛い!」

「いざ、や…、あんま…」

「ネブラと岸谷親子GJ!でも、とでもどうせなら尻尾も付けば良かったのに……えい!」

 多分、弟にそんな気は無かったんだと思う。
 けれど「えい」のかけ声と共に生えた猫の耳を揉まれ、息を吹きかけられた瞬間、身体中をゾワリとした感覚に襲われた。

「ひゃあっ、ぅんっ…!」

 それは、先程から感じていた擽ったさよりも伝わる痺れが強く、思わず霰もない声が漏れてしまった。
 不味い……と思ったが、後の祭り。
 青ざめる俺とは反対に、弟は一瞬だけ表情が固まるも、直ぐに愉しそうな笑みを浮かべながらこう言ってきた。

「……へぇ、梓ってここ弱いんだ?」

「いや、そんな事……っや、んぁっ」

「そんなに顔真っ赤にしてたら説得力ないけど……ねぇ、梓?」

「っ−−み…耳も、と…で、んっ…しゃべ…んなぁ……っ」

 止めろと言われると、やりたくなるのが人の性だ−−と言わんばかりに静止を無視する弟の手は、一向に動きを止めようとしない。
 普段の俺ならば既に反撃している所だが、身体が上手く言う事を聞いてくれない為、されるがままになっている。
 弟は俺が抵抗出来ないと分かるやいなや−−耳の中に指を入れて擽ってきたり、耳の先を口で甘噛みしたりと、いよいよやりたい放題だ。

「…ひぅっ…はぁっ……やぁ…ン…」

「俺さ、いつもの格好いい梓も好きだけど−−」

「いざ…や…?」

「今みたいに、顔を真っ赤にして弱々しく目に涙を浮かべた可愛い梓も−−食べちゃいたいくらい大好き」

 今日はハロウィンだし、俺が悪戯担当で梓が甘いお菓子担当だね−−

 耳元で呟かれた言葉と、妖しく光る赤い目を向けられ、いよいよ自分が逃げられないのだと悟る。

 ちくしょう−−!
 ハロウィンなんか大嫌いだっ!!

 そんな俺の心の叫びは誰に届く事なく、虚しく消えていった。
 後日−−
 俺が新羅に対し、これでもかってぐらい八つ当たりをしまくったのは言うまでもない。





「ねぇ梓、今度は尻尾も生やしてよ!」

「誰が生やすか!」





**************
 ちなみに、この二人は同じベッドで寝起きしています。

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