折原兄シリーズ

□中
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俺と学校祭 二日目・中


 ここで問題。
 高校二年の学校祭二日目。
 学校内だけでなく、一般にも解放される日のクラス企画・模擬店で、俺こと折原梓が人生初の女装姿(メイド服)を晒しているのは何故でしょう−−

 正解は、クラスの女子達に謀られた−−でした。
 しかも、全員がグルになっていたらしい。
 先人が「仲良き事は美しきかな」との言葉を残しているが、こんな事にそれを発揮しなくても良いだろう!

 あの後、調理室から教室へ移動した俺を待ち構えていたのは、同じクラス委員の井上を始めとした女子達(調理班除く)だった。
 いったい何事だろうか−−と思っている内に、両腕を背の高いバスケ部の二人に捕まれる。
 あれは「絶対に逃がさない」と言わんばかりの完全ホールドだった。
 事態を全く理解できていない俺に、井上はこう言い放った。

「覚悟は良いわね−−折原梓君」

 集まった女子はみんな、満面の笑みだった。
 なにこれ怖い−−!




***





「腕も足もムダ毛が無いとか……何それ羨ましい!(水泳部女子談)」

「腰細っ!これ私より絶対細いよね?!(吹奏楽部女子談)」

「うわ、髪超サラサラなんだけど!ねぇ、何のシャンプー使ってんの?(保健委員女子談)」

「きゃ〜!お肌ツルツルじゃない!腕が鳴るわ〜、轟け私のゴッドハンド!(美術部女子談)」

「サイズもピッタリね!私の目に狂いは無かった!(手芸部女子談)」

 −−こうして、女子達プロデュースの元、俺は見事メイドに仕立て上げられた。
 文字通り、制服を剥ぎ取られそうになった時にはマジでビビったぞ。
 睡眠不足だったとは言え、時間にして三十分程しか経っていない筈なのに、この疲労感は何なのだろうか。
 女子相手にこれだけ疲れたのは《前》の彼女以来だ−−アイツは元気にやってるだろうか(遠い目)
 借りた鏡を見ると、そこには普段の見慣れた自分の顔ではなく、ナチュラルメイクを施された髪の長い《女の子》に見えなくもない顔が映し出されていた。
 −−我ながら、化けたものだと思う。
 女装姿の俺を、写メを撮ってちる女子達の満足感と達成感に満ちた表情を見ると、怒るに怒れない。
 昨日弟に言われた「お人好し」の言葉が、今頃になってグサリと突き刺さっていた。
 後悔に先立たずとは、この事である。

 ちなみに−−今着用しているのは先日、俺自身が発見した他よりサイズの大きいメイド服だ。
 何が一番怖いって−−この服、俺の身体にピッタリなのだ。 どこもかしこも過不足もなく、本当に丁度良いサイズだった。
 市販品でも、ここまでしっくりくる服はそう滅多にないだろう。
 しかし、ここで一つの疑問が生じる。
 準備期間が始まってから今日に至るまで、俺は身体の採寸をした事など一度も無いし、他人にサイズを教えた事も無い。
 それなのに、どうしてこんな服を用意出来たのだろう−−?
 その疑問を、そのままメイド服を作った本人に直撃してみた。
 すると−−

「私の特技は、服の上からでも見ただけで採寸出来る事なんだ!いぇーい☆」

 ……最近の女子って、本当に怖い。




***





「お前……もしかして梓か?」

「……残念な事に俺はお前の友人・折原梓だぞ、平和島」

 午前担当の集合時間より少しに教室へ現れた友人・平和島と本日初会話がそれだった。
 既に集まっていた奴らにも十分驚かれたが、平和島も開いた口が塞がらないと言った様子だ。
 ちなみに、今日は仕事が無い筈なのに様子を見に来てくれた我がクラスの兄貴・門田には「お前、自分の性別をどこに置いてきた!?」と言われた。
 −−失礼な奴だな。
 今は仕方無く女装しているが、俺は立派な男だぞ(但し、ノーと言えない男である)


 〜回想終了〜


 そんなこんなでスタートした学校祭二日目。
 メイド役の女子にちょっかいをかけようとしたり、無断撮影を未然に防いだり、平和島がキレそうになったりものの、模擬店はとても繁盛していた。
 今のところ、メイドの中に女装した男(俺)が居る事もバレていないらしい。
 それはそれで男としてどうなのかと思うところだが−−クラス内は仕方が無いとしても、それ以外で《女装野郎》と囁かれるのは避けたいので、ひとまず良しとしよう。
 けど−−安心してばかりではいられない。
 今日の俺は模擬店の商品が無事に完売するまで《この姿》のまま、店の宣伝をしなければいけないそうだ。
 つまり、午前中の接客仕事を終えても着替える事は出来ず、女装姿で門田が作った宣伝用のプラカードを持って、校内を回れと言う意味らしい。
 −−今日はあれか、厄日なのか?
 一瞬、新手の苛めかとも思ったが、まあお祭り気分で皆いつもより思考がはっちゃけているだけなのだろう。
 出来れば、そうであって欲しい。
 −−まあ、なってしまったのだから、今更仕方がない。
 そう自分に言い聞かせ、生来の諦めの良さを発揮しながら、俺は接客に勤しんでいた。


 昼休憩まで、あと一時間。
 さあ、頑張るぞ!















「あ、アズ兄だぁ!」

「…兄……女……(兄さんが女の子になってる)」

「お前達、どうしてここに!?」

「遊びに来たんだよー!アズ兄のメイドさん可愛いね!」

「…愛……(とっても、可愛い)」

「(見られた!妹に見られた!)……ふふふ、なあ平和島。俺は死ねば良いのか?」

「とりあえず落ち着け!」

.


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