表駄文
□“…いやだ…”
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『いやなんです あなたのいつてしまふのが−』
遠い昔に読んだ詩集の一文が俺の心にふと蘇る。
その頃はただ単に当時の時代の人達の心情が描かれただけのものとしか印象に残ってなかったのだが…。
−“…いやだ…”−
カガリに婚約者がいると聞かされた時、どうしようもない衝撃と動揺、そして絶望感が一挙に押し寄せ、思わず眩暈を起こしそうになったの覚えている。
それでも、彼女に相応しい男であればそれなりに諦めはついた…筈だった。
しかし―
初めて紹介された『彼』と目が合った瞬間、その想いは一気に絶望へと変わった。
こいつが…?
いかにもナヨナヨとした容姿、権力を傘に掛けた傲慢さ。そして、何よりカガリに対する馴れ馴れしいまでの態度。
何かと「婚約者」と誇示しては強引に彼女の肩を抱き、隙あらばキスもしかねんとばかりに顔を近づけてくる。それも決まって俺の目の前で。
明らかに彼女は嫌がっていた。が、決して拒絶する事はない。それが返って悲しかった。
その悲しみはどんどんと蓄積されていき、やがてそれは、ドス黒い欲望へと変化する−。