秘密部屋
□和泉サマからVv
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部屋の中から微かに零れてくる食べ物の良い匂いと、会話。 一つはレノの声でもう一つは……知らない女の声。
『ちょっと待っててね、後は煮込むだけだから』
それは、とても楽しそうな声だった。
「………」
う〜んっとぉ……。
ちょっとばかり次の行動を躊躇っちまう。 知ってる女なら挨拶して酒渡してそんですぐ帰れば良いけど、知らない女の場合はどうしたら良いんだろ? しかも声の感じとかわざわざ飯作りにきてるあたりからして、レノに好意を持ってるタイプの女……。
――気まずいよなぁ…。
と、扉の前で暫らく打開案を練る。 入るのも何かめんどくせぇし、帰るにしてはちょっとばかりツマミを多く買いすぎた。 それにもしルードからレノに俺が好物の酒を預かったなんて話伝わったら、どうして届けなかったのかと文句タラタラ言われちまうし。
それに……
………。
帰るか行くか、迷いながら廊下の蛍光灯を仰ぎ見る。 規則的に並んだ真っ白な明かりの眩しさに、少しだけ目がショボショボした。
中ではまだ二人の会話が続いている。
『ちょっとってどのくらいだよ、と?』
『そうねぇ〜。 私と一運動している間にできるわよ』
聞こえてきた女の鼻にかかる甘ったるい声が、その言葉に含まれた意味と中の状況を彷彿とさせた。
「………」
買い物袋を片手に持ちかえて、空いたほうの手でテメェの頭をポリポリと掻く。
……俺はお邪魔だな……
酒は明日にでも渡しゃ良いか。 ツマミは……悪くなりそうなモンだけ食っちまおう。
そう考えながらエレベータに向かって歩きだした、その時――。
『後は自分でできるから、お前はもう帰れよ、と』
「……!?」
聞こえてきたレノの声に、俺は一瞬自分の耳を疑った。 引き返そうとした足が自然と止まる。
『もう、冷たいんだから』
『前にも言ったろ? 俺はただのセフレとは自分のベッドじゃヤらないぞ、と』
『……貴男って本当に失礼な男よねぇ』
「………」
レノの事だから、ラッキーってそのままベッドに傾れ込むかと思ってた……。
………。
ほんの少し、耳が熱くなってきちまった。
だってさ……。
だって…
俺とはヤってんじゃん……?
俺は口元に手を置き、熱を持ち始めちまった顔の火照りを、何とか押さえようとした。