お題小説

□左耳のピアス
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俺がピアスを空けたのは、ザックスが死んだあの日…。


この日を忘れたくなくて。

ザックスを忘れたくなくて。



左耳に自分で針を通した。



冷やしたりなんてそんな面倒な事はしなかったから、少しだけ痛んだ。
刺し所が悪かったせいもあって、血が滲んだ。


でも、アンタの痛みに比べたら全然だ。








…後悔するなんて分かってたら、あの日アンタに空けてもらえば良かったかな…――。










『なー、レノってピアスとか空けないのか?』
『あ?あ〜…空けたいとも思うんだけど、特にきっかけが無くて…』
『マジで?じゃあ今空けようぜ、今!』
『今〜?嫌だよ、空ける道具も何もねーし…』
『えー…つまんねーの。絶対レノはピアス似合うと思うんだけどな〜』
『俺様は何でも似合うんだよ、と』
『へいへい…あ!俺のピアスで空ける?』
『はぁ?おまっ…、それは無理だろι』
『ちぇー何だよ、根性ナシ』
『何とでも言えよ、と。つか何で急にピアスなんだよ』
『や…、前にレノと買い物言った時ペアリング拒否されたから、ペアピアスならいいかな〜って』
『だから、リングはあからさまだろ?と』
『でも俺はレノと同じモノを共有したいの!』
『…そこまで言うなら、ザックスのピアスくれよ』
『俺の?』
『今してるヤツ…いっつもつけてるだろ?それなら俺もしてやったっていい…』
『まっマジで!?』
『嫌なら別に良いけどな、と』
『嫌なわけないって!ちなみにコレ一点モノだからなっ!無くすなよ〜』
『はいはい…ま、今は空ける気ないから無くさない可能性はないけどな、と』
『だから俺が今空けるって!』
『うわっ、ザックス!コラッ…ははっ、やーめろって…――』







結局俺はザックスにこのピアスを付けている姿は見せられなかった。


本当は見せてやりたかった。

アイツが喜ぶ顔が見たかった。



今更もう全部遅いけど…。







でもこのピアスは俺の宝物だから、大事に大事にしまっとくんだ。

そして、来年、再来年、ってアンタの命日には必ずコレを付けて逢いに行くよ。



アンタのピアスを付けなくても、この左耳の穴はちゃんとアンタとの大事な日を刻んでるから。

俺とアンタが再会できた大事な日…。


だからきっと今日という日を、いつだって忘れない。







アンタの死んだ顔を見せ付けられた時、泣きたくて泣きたくて仕方がなかったけど、アンタの右耳には同じピアスが今でも付けられていて、俺は救われたんだ。







コレが俺の、誰も知らない左耳のピアスに纏わるエピソード。



END.

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