秘密部屋

□和泉サマからVv
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それは慌ただしかった一日の終わり。


「Trick or Treat?」


任務終了して、漸く一休みできるかとホッとしたのも束の間。
なんでそんな事になってんだか? ゴロリとベッドに横たわった俺の横に、レノはあぐらをかいた姿勢で腰を下ろしている。


「っつーかなんで人ん家にいんだよアンタ? 任務は?」
「今さっき終わらせたばかりだぞ、と。 んな事より、今日は何の日か、お前忘れてんのか?」


そう言うとレノは一体ドコから持って来やがったんだか、手に持ったオレンジ色のちっせぇカボチャの頭を俺の鼻に押しつけながら、その日お決まりの言葉を繰り返した。


「Trick or Treat?」
「………」


アンタ子供か? 正直、丁度ウトウトしかけてたトコロだったから、すんげぇウザってぇ……。
けど、まぁコイツのタチ悪ぃ悪戯よりかはマシだからさ。

俺は肘で軽く身体を支える姿勢のまま腕を伸ばし、サイドボードに置いてある小さな缶を引き寄せた。
コーヒ缶よりはややデカイソイツの中身は、最近俺がちょいハマってる口の中で溶かすタイプのチョコレート。 口が寂しくなった時に良く食ってる奴だ。


「……ほら」

蓋をあけて一粒取り出して、悪戯な笑みを浮かべてたその口に押し込む。


「……これで文句ねぇな? じゃぁ俺は寝る」
「………」


まさか俺が菓子なんて用意しているとは思わなかったのだろう。 コロコロと自分の口の中の丸いチョコレートを転がすレノは、なんだか面白くなさげに少しだけ顔を膨れさせた。


良し! 寝よう。


レノに背を向ける様に壁側に寝返りをうって、俺は目蓋を閉じようとした。 その時――


「俺が欲しい“お菓子”はコレじゃないぞ、と」
「――ひゃっ?!」


上になった俺の左耳に、微かにチョコの匂いの交じったレノの息が吹き掛けられた。


「――っ! レノ!!」


思わず耳を押さえながら身体を起こすと、目の前にはニヤニヤと嫌な笑いを浮かべるその見慣れた顔。 レノはワザと開けた口の中で器用にチョコレートを転がしている。


「アンタなぁ――っん……!」


安眠妨害の文句でも言ってやろうとした俺の唇を、チョコレート味の舌が塞ぐ。


「ん……っ……ぅん」


絡み合うお互いの舌の間を、小さなその物体が転がっていく。
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