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□僕がそばにいるよ
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ひらりと、ひとつ。何かが舞った。はじめは虫かと思ったけれど、どうやら何かの花弁のようだった。

夜の荒野の中、それを目で追い掛けていると前方に歩く人影を見つけた。どうやら彼も陣地へ戻る道中らしい。

私は痛む足を無視すると、彼の背中めがけ駆け出した。



「星、きれいだね」


晋「…なんだ、オメーか…」


「…暑いね?」


晋「…あァ、そうだな…」



暦上では春、しかし今夜はどこか蒸すような暑さがあって。戦帰りで歩く私達は、額にじんわり汗を滲ませていた。

ふいに彼は、並んで歩く私の足を見やる。少し引き摺るようにして歩いていたのに気が付いたようで。

面倒臭そうにため息をひとつ溢すと、ゆっくりと歩く私の前に屈んで、ほらよ、と背中を差し出した。



「…あ、大丈夫だよ?」


晋「…俺の方こそ大丈夫だ、とっとと乗れ…」


「…だって私重…」


晋「つべこべ言わずにさっさと乗れや」


「…は、はい……」



言葉に苛立ちを含んできたから、私はお言葉に甘えておぶわれることにした。遠慮がちに回す腕、もどかしかったのか、彼にがっちりと身体を支えられた。

そしてなかなか、動き出そうとしない。



「…ね?重いでしょ…」


晋「…あァ」


「…そこは嘘でも重くないって言うとこじゃ…」


晋「…軽かったら、笑えねェだろ…」


「……え…?」


晋「…戦に出るようになって…尋常じゃねーくらい軽くなってたらよォ…俺はオメーのことおぶわねーよ…」


「………」


晋「…フン、とりあえず…標準並みの重さじゃねーのか?」


「…え…あ、…うん…」



背中からじゃ顔は見えない。だけど、すごく優しい顔してるんじゃないかなって。ゆっくりと歩き出した彼の背中で、私は小さく笑った。



「…あ、そういえば私さっき、何かの花弁…」


晋「…花弁?ああ…あれのことか?」


「…あれって…?…わぁ…!」



私達の視線の先には、一本の桜の木が。月明かりだけが照らす荒野に、紅々と咲き立っていた。

生暖かい風に乗って、花弁が四方八方に舞っていく。彼に教えられるまで、全く気付かなかった。



「…きれい…知らなかったな…」


晋「…贅沢だな、オメーとふたりで見…」


「……え?」


晋「…いや、なんでもあるめー…」



しばらくふたりで、それを眺めていた。それ以上、言葉は出てこなかった。



「…来年の今頃は、どうしてるの…かな」


晋「…あ?」


「…戦も、終わってるだろうか…」


晋「…さぁな」



この暑さに、この風だ。あっという間に葉桜になってしまうだろう。もう少しだけ、見ていたいと願うのに。



「…戦終わってたら、もうこの桜は見れないね…」



それもまた、よい事のような気はするけれど。



晋「…そんなに見たけりゃ、また来ればいいだろ…」


「…ひとりじゃ、おっかないよ…」


晋「…俺も一緒に来てやる、」


「…本当?」


晋「…あァ、」



戦が終わってるかもしれないってのに、なんで哀しそうに話しているんだろう、私。

戦が始まったから、彼に会えて。共に戦えている、そういう運命だと信じたからだろうか。

戦が終わったら、離れるんじゃないかって。



晋「…咲くといいな」


「…え?」


晋「…一緒に、見に来るんだろ?」


「…うん、そうだね」



離れない、決して。たとえ戦が終わっても。そんなことをひとりで決めて、彼の首に回す腕に、小さく力を込める。



「…一緒に、ね…」


晋「…あァ…」


「…約束、だよ」


晋「…分かったよ」



もちろん、戦が終わる保証もなければ、それまで私達が無事に生き残っていられる確証もありはしない。けれど、



「…きれい、だね」


晋「…あァ」



それでも、私はずっと君の背を追い掛けていこう。


桜舞う季節数え、

君と 歩いていこう。















僕がそばにいるよ


(君を 笑わせるから)













『桜』
♪河口恭吾





20130414



高杉晋作の命日です(´ω`*)
遠い東北の地より、心よりご冥福お祈りいたします。


ちなみにまだ、桜咲いてないです(笑)





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