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□愛を詩って
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今日が何の日か知ってか知らずか深夜私の想い人はのそのそと部屋にやってきた


なんでもお通ちゃんに
作詞まで頼まれたらしい


しなやかな乙女心を知りたいと
私に相談を持ちかけてきたのだ


その時点でもう
(私の)乙女心なんかわかってない



「今回はバラードにしようと
思うているのだが…」



今日という日が終わるまで
あと3分…



「お通ちゃんと相談して書けば
いいじゃん」



私にきいたって
どうせ素人の答えしか
返ってこないのに


とにかくなんでもいいから
言ってみてほしい、


そう言われた私は
(なんでもいいのかよ)と思いつつポツリポツリ呟いてみた




「…帰ってくるのはいつも朝方
もう慣れた、心配かけないよに 寂しいの一言は胸にしまった」


「…」


無言無表情のまま、
万斉は筆をすすめる
(こんなんで本当にいいの?)



「…でも時々、私を包み込む
その大きな手に触れるだけで
寂しいなんて忘れちゃうから…」


これじゃまるっきり
私が万斉に宛てたメッセージではないかッ!


でもこんな時だからこそ
伝えられることがあるんじゃないかと思って…




私は立ち上がり
メモを取り続けている万斉の元へ向かう


私の動きに気付いていない
万斉の向かいにまわり、


両手でその頬を包み込み
少し無理矢理に額をコツンとぶつけた



少し戸惑った様子の万斉の眼を
サングラスごしに見つめて
私は告げた



「誕生日、
おめでとうございました。」




少し遅れて、消え入りそうな
万斉の「あ…」が聞こえてきた



(ほらね、やっぱり忘れてた…)



クールなキャラクターは
自分の誕生日を忘れてしまう特徴があるんだってさ


おめでとう
君もこれでクールキャラの
仲間入りだね(笑)



でもそれは私とって
自分の誕生日を忘れられることと同じくらい哀しくて


自分の誕生日を忘れられること以上に辛かったりする



少し涙が滲んだ私の眼に
万斉は気付いただろうか



なんて思いつつも
私は元いたベットに戻り腰掛ける


途中、携帯が赤く光った
それは0:00を表すシグナル



その日のうちに言えた、のは
嬉しかった、


でも一緒に居れたのは
リミット3分間だけ、
それは悔しい



ベットに背中から倒れこみ
眼元の涙を隠すように腕で覆う



「…逢いたいよ、いつだって
そばにいてほしいよ」
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