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□きみときえる
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降り積もる、雪の中にて。















月明かりだけだった、私の視界を明るくしてくれていたのは。音もない世界に、たったひとつ聞こえるのは私が雪を踏む音だけ。

小さく白い息を漏らす。一度立ち止まって、傘を畳み夜空を仰いだ。寒いな、なんて。そんなことしか思いつかない。


また、傘を開けばいいものを。それすら億劫でただただ空を見上げる。私に、雪が降り積もってゆく。



「雪だるまにでもなるつもりか?」



ふいに聞こえた声に、私は顔だけ後方を振り返る。そこには、私が帰りを待っていた人物が。



「…遅いっ」


「悪かった…だが、家で待っていろと言ったはずだが?」



確かに、と笑って誤魔化す。そしたらイタチも笑って、私の近くまで歩み寄り、私の頭や肩に積もった雪を払ってくれた。


待っていろ、と言われたけど。それで大人しく家で待っていられるほど、私は利口じゃないのに。

2ヶ月ぶりに愛しい人が帰ってくる、任務を終えて追跡に怯えながら、それでも私のとこに帰ってきてくれる。のに、早く会いたいっていう乙女心が分からないんだろうな。



「…何故、空を見上げていた?」


「え?なんとなく…なんで?」


「…いや、」



ふいに真面目な顔してそんなこと聞くから、私は間抜けな返事しか出来なかった。何か言いたそうだから、黙って顔を覗いてやると、



「…消えそう…だった…」


「……え…」


「…そんな風に、見えたんだ……だから、」


「………」



少し歪んだ表情で、そんなことを言った。私は拍子抜けして、彼を安心させてあげなくちゃ、そんなことを思ったんだけど。



「…消えたりしないよ、私雪女じゃないしね」


「それは…そうだが…」


「…ただ、」


「…ただ?」


「…このまま、消えるのもアリかな…なんて…」


「………」


「…そんな風には、思ってたかもしれない」



そんな台詞しか出て来なかった。途端動けなくなった彼にも徐々に雪が積もり始めた。今度は私がそれを払ってあげる。



「…なんてね、そんなの、ひとりじゃ絶対嫌だけど…」



私は寒さを言い訳に、イタチに正面から抱きついた。私が携えていた傘は雪の上に、音を立てて倒れた。



「…そうだな…ふたりなら…」


「…悪くないでしょ、雪の中心中」


「…嗚呼、お前となら…悪くない」



そう、優しく微笑んで、イタチは私を両腕で包み込んだ。



(次会えた時、腕がないかもしれないよ)

(次なんてもう、無いかもしれないよ)



どこかの誰かの言葉が頭の隅で戦慄く。勿論、(分かってる)、なんてのは口先だけ。

ただ、私がそんな不安とサヨナラする為には、捨てるものが多すぎるから。





(…伝わったかな、私の覚悟。)





いつ、どのタイミングでだって、貴方となら、消えれるんだよ、私。声に出したら嘘臭くなるから、そんなことしないけど。

貴方の役目が終わり、この世界から必要とされなくなった時、私が隣にいていいのなら。



貴方が望む、素敵な最期を、ふたりで。














きみときえる



(雪が溶ける 頃にはきっと)















20130102

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