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□幻(ウソ)だなんて言わないで
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誰かが頭を撫でている


そんなくすぐったさを覚えて
私は眼を覚ました




眼を擦ると
貴方の顔がはっきりと見えてきた














幻(ウソ)だなんて言わないで















「…悪い、起こしてしまったな」



ベッド脇にしゃがんで

私に掛けられるその声は
間違いなく、貴方の声で



「ううん…平気……」



私の頭を撫でている手は
間違いなく、貴方の手で




「仕事…おしまい?」


「ん、あぁ…
しばらく休養を貰ったんだ
だから帰ってこれた」


「そ、っか…」



その声は何故か寂しげで
何処か切なげで

私はどうしようもない
不安に駆られた



「しばらくはゆっくり出来る…
だからふたりで旅行にでも行かないか?前から行きたがっていただろう…?」


「うん、そうだね…」



久しぶりの再会だというのに
とてつもない睡魔に襲われる


今しかない、
なんとなくそんな気さえするのに



「まずは温泉にでも行くか
いい温泉郷も見つけたからな」


「…おいしいお饅頭もある?」


「ふっ、きっとあるさ…
まったく、お前は食い気ばっかりだな」



肝心の言葉が出てこない



「薔薇園にも、行きたがっていたな…」


「うん…でも今は咲いてないよ?」


「そうだな…
なら、来春に行くとするか」


「うん、そうしよう?」



言葉を途絶えさせたくない
何故か今にも、消えそうで



「…そいえば、おいしい甘味屋さん見つけたの…」


「それは本当か…?」


「うん、お団子もおいしいけど、夏季限定の心太なんかもね、ひんやりしてておいしいの…」


「そうか、それは
行ってみたいものだな」


「…ふふ、イタチも食い気ばっかり…」


「ふっ、お互い様だな…」



急に辺りが暗くなる
私は小さな不安からシーツをギュッと握る


それを慰めるかのように
イタチはまた、私の頭を撫で始めた



「冬になったら
何処へ行こうか?」


「……」


「雪まつりにでも行ってみるか?少し遠いが…、それとも」



そこまで聞くと
私は首を横にふる



「いいよ、寒いの苦手だし
それにまた今年も、耳に霜焼けつくっちゃったら、カッコ悪いでしょ?」


「それもそうだな…」



私の願いはただひとつ、





「冬は…、寒いから
ずっと家に居よう…?
鍋なんかつっつきながらさ…」


「…あぁ、わかった」


「そんで、一緒に蕎麦食べて、紅白見て、一緒に年越すの」


「あぁ」


「一緒に新年迎えて、おせち食べて、それから一緒に初詣行く…」


「…あぁ」


「そして、なんだかんだしてるうちに、春になるでしょ?そしたら薔薇園行くの!」


「……」





やりたいことなんて
きっと尽きない


だから、つまりは






「…何処にも、行かなくていいからさ…」


「……」


「ずっと、此処に居ようよ…」




イタチの頬にそっと手を伸ばす


予想以上の冷たさに
思わず狼狽える



けれど




「だから、ずっと…」



(そばにいて…)






ようやく言えた
最後は声にならなかったけど



イタチは私の手に自分の手を重ね優しく(あぁ)と呟いた



私の頬にはひとつの涙筋
イタチの声も、充分小さかった




私に触れていたその手だけは
ほんのり、温かかった













幻だなんて言わないで





貴方が光に透けて見えたのは
きっと私の、見間違いよね?















20101020



実は管理人の
誕生日だったりして…(´ψψ`)

おめでとう!私♪\(^O^)/笑



それから!
「ジャック・ナイフ」♪DOES
本日発売です(^ω^)

皆さんよろしくです!←



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