リトルアンカー
□雪の中のぬくもり
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ある冬の寒い日…―――――――
白い雪がフワリフワリと降っている。
冷たい雪が俺の躯を包み込む。
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寒い…。
「俺……」
俺、なんで外に居るんだ?
こんな寒い日に。
なんでだっけな…?
「……………」
まぁ、いい。
理由なんかどうせないんだろう。
じゃあ、エリュシオンに戻ればいい。
……のに。
俺の足はエリュシオンから遠ざかるばかりで。
「…寒い」
真っ白な光景。
俺の心も、こんな景色なんだろうな。
こんな風に真っ白で、冷たくて、空っぽなんだ。
「………逢いたい…」
誰に?
吐く息とともに零れる。
「………逢いたいんだ…」
誰に逢いたいんだ?
俺は。
「…躯…寒い…」
足が止まる。
雪が、フワリと降り積もる。
「…寒い…冷たい…」
――――――レイシェンさん…
「……雪乃…」
雪乃…。
そうだ、俺は雪乃に逢いたいんだ。
――――――私が居なくなるってことに…
「………っ………」
――――――貴方は淋しいって思ってくれますか?
「………淋しいに決まってるだろ…」
――――淋しいなんて思わない。
精一杯の強がり。
なんでもないフリ。
表には出さなかった。
―――――私は"淋しい"ですよ?
あの時、雪乃はどんな顔をしていた?
呆れてた?
悲しんでた?
それとも…
「………泣いていたのか?雪乃…」
ぎゅうっと、拳を握る。
「レイシェンさん……?」
え…?
懐かしい…声。
耳元で響く、愛しい声。
ゆっくりと俺は後ろを振り向く。
おそるおそると。
其処に居るのは間違いなくあいつだ。
声で判った。
「……ゆき、の…?」
逢いたくて、逢いたくて。
愛しくて。
やっと、逢えた。
「――――…雪乃っ!!」
俺の愛しい人。
俺の冷たい心を、この人は温めてくれる。
雪乃…。
ずっと、待ってた。
お前が居なくなった、あの時からずっと。
忘れかけていた。
俺はなんで外に居たのか。
「――――…レイシェンさん…」
お前が帰ってくるのを待ってたんだ。
「寂しかったって思ってくれてましたか?」
淋しかった。
辛かった。
「――――…当たり、前だっ……」
たった一年、お前が居なかっただけでこんなにも辛いなんて、思ってなかったんだぞ?
「……馬鹿雪乃っ…」
「レイシェン…さん…」
ぎゅうっと、俺は雪乃の躯を抱き締めた。
このぬくもりを、離したくないと思った。
「……もう何処にも行かないでくれ…」
心が痛くなるから。
「……俺を、独りにしないでくれ…」
涙が零れるから。
「―――…レイシェンさん……あのね、私も…」
「……?」
「―――…私も、貴方に逢えなくて淋しかった…」
雪乃も俺と同じ気持ちで。
淋しいって。
「何度、貴方に逢いに行こうかって思いました…」
「………雪乃っ…」
あったかいよ。
お前の体温…――――――
「もう、何処にも行くな…」
「行きませんよ。貴方を置いてなんて、無理です…」
白い吐息。
もう寒くない。
お前がいるから、俺はもう寒くない。
けど。
けどな?このぬくもりだけは絶対に誰にも渡さないからな。
「―――――…愛してる…」
End
→後書き