リトルアンカー
□君に惹かれた心
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「……あれが、オリジナルの好きなものか」
興味があった。
オリジナルの総てに興味があった。
好きなもの嫌いなもの、愛しいもの、オリジナルの表情、感情。
総てに興味が湧いた。
同じだからだろうか。
"レイシェン"という人格に合わせて創られた"私"という存在。
違うところはたくさんある。
けれど、生まれたのは"レイシェン"という人格があったからこそ"私"という存在がある。
だから興味があった。
「………白浪雪乃……」
"レイシェン"にも"雪乃"にも。
オリジナルからあの人を奪いたいと思った。
******
初めて、あの人を見たとき。
胸の奥がくすぐったいような感覚に襲われた。
くすぐったいと感じるわけない。
私は、アンドロイドだから。
なのに。
なのに、何故?
白浪雪乃。
頭の中、私の思考回路は貴方でいっぱいだ。
あの蒼い髪が、瞳が、表情が。
総て鮮明に巡って廻って、ああ、キレイなものだなと。
「…雪乃が気になりますか?」
「……え…?」
私を創った主がそう云った。
小さく怪しくそれでいて何処か楽しそうに、マスターは笑う。
「……フフ…でもね…あれは、誰かさんのものですよ?」
それが誰なのか、私は知っている。
知っているからこそ、なんだか晴々としなかった。
憂鬱、と云うのか。
腹が立つ、と云うのか。
「それでも、貴方は誰かさんと同じように雪乃が欲しいと思っていますか?」
「………欲しい…?」
何かが欲しいなんて考えたこともなかった。
いや、考えられなかった。
私という存在は、創られたものだから。
考える能力なんてなかったんだ。
主の命令を聴いて、行動するだけで、何も苦しいこともない。
けれど、つまらないと感じたのはあの人を見たときからだった。
「……欲しい、そんなこと……」
「なくはないでしょ?貴方はレイシェンの人格から創ったアンドロイド」
所詮は、カラクリ。
「……私は、もう一人の"レイシェン"だと云うんですか?」
「フフ…そうとも、云いますかね」
主は、何処か楽しそうに笑う。
そして何処か哀しそうに。
「……まぁ、今は貴方は"レイシェン"ではなく…一人の男性にしか見えませんね」
「…………」
なんとなく、納得した。
顔や、身長などおんなじでも中身は違っていた。
"レイシェン"と"私"。
近くも遠い。
「………私は……」
少し下を俯いた。
思考回路の中を整理しようと、言葉を探そうとした。
「…白浪雪乃を、欲しいと思ってる…?」
口から自然と言葉が零れた。
白浪雪乃が欲しい?
けれど、あれは…
あれは"レイシェン"のものだ。
手に入れれやしない。
そして私はカラクリ。
アンドロイド。
何をしても、何を求めても、私は人間になどなれやしないのだ。
そう。
これは、バグだ…―――――――
「……フフフ…おもしろくなってきましたねぇ♪」
主は目を細めて小さく笑った。
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