第三の本棚

□時計屋ウサギと白雪王子
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白雪姫の世界。

その国に一人の赤ん坊が生まれた。

白い肌に藍色がかった綺麗な黒髪。

とても綺麗な王子さまが。





本当はお姫様が生まれるはずだった。

だけど王子が生まれた。

本当は王子は生まれないはずだった。

なら、どうして俺は生まれたんだ?

俺の名前は、白雪。

本当は生まれてくる姫に付ける筈だった名前。

生まれたときからこの部屋を出してはもらえなかった。

箱入り息子というわけではない。

父も母も俺の顔を見たくないのだろう。

姫が生まれるはずだったのに、王子が生まれたから…

この国は女王政権で男は国を継げないから…王子なんて必要ないのだ。

そのまえに王家は女系一族で男が生まれるなんて聴いたこともない。

「やぁ、いらっしゃい。」

ある日、ウサギの耳を生やした女の子がやって来た。

入れないはずなのに、不思議だな。

「こんにちは白雪。ここから出たくない?」

「え…出たいよ。」

出たいと答えると、彼女は扉を開けてくれた。

扉の前で食事を持ってきた使用人が倒れている。

「しっかり…」

「白雪、あと少しボクが来るのが遅かったら殺されてたよ。」

これ毒入りの食事なんだ。

眼の前が真っ暗になった。

どうして殺そうとしたんですか父上母上。

俺を18まで育ててくれたのは……ほんの少しでも俺のことを愛していてくれていたからじゃないんですか?

なぜ今になって殺そうとするんですか?

いっそ生まれたときに殺してくれた方が…楽でした。

俺は二人のこと愛していました。

ウサギ君が用意してくれた馬で城を出て、国から出た。

もう、城には帰れない。

しばらく行くと、小さなふるい小屋を見つけた。

誰も住んでいないようだ。

「ここで一人静かに暮らそう…」

幸い俺は料理も裁縫もできる。

暇つぶしにしていたことがこんな所で役に立つとは…
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