君のその手を
□22章:見上げれば、
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違和感を感じた1つ目はマンションの駐車場に着いた時だった――。
仕事を終え、真っ直ぐ帰路に着いたマンションの駐車場。
賃貸契約している部屋毎に割り当てられたそのスペースに普段通り自分の車を停めようとした時、サイドミラー越しに見えた風景にどこか少し違和感を感じた。
バックで車を入れながら目線を隣にやるが、渚の愛車は左隣の定位置にピッチリ停められており、彼女が仕事から帰宅済みであることは確認できる。
…で、次に反対側。
右隣には3台のバイク達が――
…あン?
…渚のバイクが無ぇんじゃねぇか?
エンジンを切り、車を降りて足早にその場所に回り込むが、やっぱり普段乗りしていたほうじゃない別のバイクが無かった。
走りに行った、…のか――?
結論はそれしかないのだがどうにもこうにも腑に落ちないことばかり頭に浮かぶ。
今がシーズン真っ只中なら『走りに行きやがったな』と然程気にもならないし、むしろ羨ましく思ったに違いないが今は冬。
まだまだ真冬ではないが、深夜から朝方にかけては少しの水溜まりに薄く氷が張ってしまうような気温になる。渚がそれを分かっていない筈がない。四輪ならともかく二輪でそんな道路を走るのは自殺行為だと。
しかも渚だって秋の終わり口に『春までお休みだからね』って言いながらメンテナンスをし、車体を磨いてたのを俺は何気無しにちゃんと聞いていたんだ。
――のに、何故?
被されていた銀色のカバーは綺麗に折り畳まれ俺のバイクの上に置かれていたから急用で何処かに乗ってったってワケでもないようだ。
そして疑問が浮かぶと同時に変に引っ掛かるような感じがするのはそのバイクが渚にとって特別なモノだから。
いや、“特別”という言葉じゃ言い表せないくらいかもしれない。
『父親の形見』なのだから――。
…何かありそうだなこりゃ――
…俺、何かしたか――?
思い返してみれば、俺が勤務等で不在時に走りに行く時は『峠をチョイ攻めしてきます』とか『海沿いを流してきます』っていうメールが必ず入っていたし、俺が家に居る時や帰ってくる日は渚は一度も走りには行っていないように思う。
首をひねりながら一旦その場から離れ、共に暮らす部屋へ向かうエレベーターの中で携帯を開いて確認してみるが今日は一度もそんなメールは入っておらず、そういった点からも余計に俺が関係しているような気がしてならなかった。
まさかプチ家出とかじゃねぇよなぁ――
何処に行きやがった――?
心当たりなんて全くねぇのに――。
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