幸せは繋いだ手の中に

□seventh heaven
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『俺ン家に来ないか?』





――意を決してそう伝えると、彼女は静かにゆっくりと頷いた――。












紗織と車の中でちょっとした駆け引き。


こういう感じで“誘う”のはお手のモノ…だった筈なのに一体俺の身体はどうなってしまったんだろうか。

もう少しで吐き気に変わってしまいそうなくらい激しい心臓の鼓動。

生唾を何度も飲み込んだ。




以前はこういった駆け引きを楽しみながらも、いつも心の隅には客観的で冷ややかに見ている自分がいたハズだ。


『オマエは絶対俺に落ちる』


『落ちてこいよ、可愛がってやるから』


と――。




まぁ誘いを断られたコトなんて一度もないが、たとえ断られたとしても、『ンなら別な女を適当に探すか』なんてコトを考えていたと思う。



だけど、今は“別の女”なんていう考えは微塵も浮かんでこない。
だって紗織と会ってから余裕というモノを一度も持っていないのだ。


俺からメールを送らなきゃメールもない。

電話を掛けなきゃ電話も来ない。


俺の仕事の忙しさを気遣っていつも心配してくれてる風の内容のメールをくれる紗織が常に控えめな姿勢でいてくれるコトはそれはそれで嬉しいし分かってるつもりだが、ちょっと度が過ぎるような気がするのだ。

現にそれによって俺がかなり焦らせられているという結果に繋がってしまっていて、長年培ってきた俺の恋愛スタンスはもう崩壊寸前といっても過言じゃなくなっている。


もう紗織の一挙一動が気になって仕方がなく、COOLな自分など何処にもいない。


その証拠に返信があった瞬間にtensionが上がるのは付き合う前も付き合ってからも変わらない。

そしてすぐさま小十郎に見つからないようにしながら仕事の最中にコソコソとメールを打つとまた直ぐ返事が来てtension上がって、『お仕事頑張って』というmessageを読んで真面目に机に向かい仕事をする。

単純だと言われてもそういう気分になるんだからどうしようもない。



…ま、結局は秘書兼監視役の小十郎に『政宗様…口元が緩みまくってますぞ。』とボソッと言われ、バレてしまってるのは明白なのだが、不思議とその後に続く筈の小十郎の小言も激減していた。

何気に応援されているらしい。

…んじゃあ堂々と返信メールすればイイじゃねぇかと思うヤツもいるだろうが、ホント気持ち悪いくらいに小十郎がニコニコしながら見てやがるから俺は未だに隠れて紗織にメールを送っている。

…だって何か逆に怖ぇから。







「あ…、あの…――」

「な、何だ…?どーした?」

「ソレってお泊まり…ですか…?」




い、今頃ソレ確認すんのか!?

分かってて頷いたんじゃねぇのか!?

『やっぱり帰ります』って言われたら俺は多分2,3日浮上できねぇかもしれねぇ――。





「…まぁそういうつもりで言ったが、泊まりは嫌か…?」

「そうじゃなくて…、あの…、少し家に帰りたいんですけど…――。」

「な…んで?」



…やっぱちょっと焦りすぎたのか!?
…いや、でもこの雰囲気じゃ言ってもオカシクねぇよな!?




「…あ、あの、だって明日も私仕事ですし、着替えとか色々…それに今更ですけど私、多分消毒液の匂いしてますよね…?だからお風呂に入ってから行きたいかな…と――」



…なんだ。そーいうことかよ――。


…まぁ確かにあの独特の匂いがしないでもない。

…着替えが必要だというのも尤もだ。



「…じゃあ、着替えが必要なら最初にまずオマエのマンションに寄る。風呂は俺ン家で入れ。」


「…ホントにイイんですか…?私が行っても…。」


「イイに決まってんだろ。…つーか帰す気なんてハナッから無ぇんだよ。」

「え…?」



「…俺はまだ紗織と一緒に居て――色んな話したくて――もっともっとオマエを知りたいって思ってんだから――。」


「…私も…いつもそう思ってました――。…だから行ってもイイですか…?」



紗織が頬に添えた俺の手にそっと自分の手を重ねる。



「…ああ、来いよ――。」






――きっと今夜は“特別な夜”になるだろう――


俺の一層酷くなったこの胸の高鳴りはそんな予感を助長していた――。






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