幸せは繋いだ手の中に

□seventh heaven
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――そうしてまず私のマンションに寄ってもらった。



『直ぐ準備して来れるだろ?待ってるから行ってこい』と言う政宗さんを車に残して自室に戻る。


そしてバタバタと必要な物をかき集めてトランクに詰め込み、数分後には部屋を飛び出した。


その帰路、自然と駆け足になってしまったのは『待たせちゃいけない』という思いとトクトクと未だに早い鼓動がそうさせているような気がする。



…なんせ男の人の家に行くなんて初めてなのだ。


『俺ン家に来ないか?』と政宗さんに言われ、何気に頷いた後に、何かスゴイ事言われたような…とその言葉をもう一度思い返し、置かれている状況をよくよく考えてみればもう22時を過ぎているコトに気付き、もしかして泊まり掛け…?というコトが頭に浮かんだ。


で、聞き返してみればやっぱりそうで――



ドッと鼓動が早くなり、どうしようと戸惑ったがそれは嫌だからとかいうコトじゃなく、このままじゃ行き辛いと思ったから。



仕事してる時は気にならないけど、帰宅するとかなり消毒液の匂いが髪や身体に染み付いているのが分かるし、普段から下着類の替えを持ち歩いているわけじゃない。


だから『少し家に帰りたい』と政宗さんに伝えたのだ。



そしたら政宗さんは途端に怪訝そうに表情を曇らせた。

私の言葉の説明が足らなかったせいだと思うけど、その時の落胆ぶりと



『…俺はまだ紗織と一緒に居て――色んな話したくて――もっともっとオマエを知りたいって思ってんだから――。』




と言ってくれた政宗さんの言葉に胸の奥がキュン…となる。



政宗さんが自分と同じ気持ちを持ち、想ってくれてるコトを知って、『この人を好きになって良かった』って思った。


『この人ならいい』と思った――。




















「お?…割りと早かったな。」



またもや小さくカタカタ震えながら寒いのを我慢して外で煙草を吸ってた政宗さん。


なんかそんな予感がし、荷物を詰め込んだ小型のトランクを携えながら駆け足でマンションの駐車場まで戻ればやっぱり予感通り。

丁度吸い終えたトコだったらしく、荷物を抱えて車に乗り込めば直ぐに車は走り出した。







「うん、とりあえず必要なのだけ詰め込んできました。着替えとか洗面道具…あとは薬ですね。」

「『薬』?ぁ…喘息のか――。そーだよな…やっぱ一旦寄って良かったぜ…。」

「…ねぇ政宗さん、ソレって元親先生から聞いたの?」




その事について私はまだ政宗さんに話していなかった。

長年患っているその病名を。



でも今は服薬によるコントロールができている状態で、発作を起こす事も滅多に無くなり、生活に支障がある訳でもない。

子供の頃からの持病であるから慣れたと言えば慣れたと言っていいし諦めてると言えば諦めてる。

かといってその自分の体質を特に悲観したコトはないし、隠すつもりもなかったからサラッと『薬』と口に出したのだけれど、私の『薬』という一言を聞いた政宗さんの口から『喘息』という病名がすぐに出てくるとは思っていなかった。



でもふと思い返してみると、政宗さんが私の前で煙草を吸ったのは最初に出逢った時だけで、二人だけで会うようになってからはさっきみたいに外で吸ったりしている。



――あれは私の為…?





「ああ。前に鍋食った時、元親が煙草吸う時いちいちベランダに出て吸ってただろ?前までは部屋ン中でバンバン吸ってたのになぁ…って思って、『何でだ?』って聞いたら、『煙で紗織が発作起こす』っつーからさぁ…。実際やっぱダメなんだろ?」


「…まぁ少し、苦手ですね…。平気な時は平気なんですけど、その時の体調に左右されるというか…。何か知らぬ間に気を遣ってもらってたみたいですね…。」


「…なぁに、身体に悪ぃモンだって分かってんのに止められねぇ俺がバカなんだよ。元親こそ医者なんだから止めりゃあイイのにな。ま、俺は前より本数減らしてっからそのうち止めてやるぜ。…で、元親に言ってやる。」

「フフッ、『俺は禁煙成功したぜっ!!オマエより先になっ!!』って言うの?」

「of course!!よく分かってるじゃねぇか!!」




…やっぱり政宗さんと元親先生は仲がイイんだか悪いんだか分からない。


でも二人とも優しいし、ありがたいなぁと思う。

嫌だとか苦手だと思っていても中々言い出し辛いものなのだ。





私が知らないトコで二人の間にあったやり取りを聞いて、『気を遣ってもらってスミマセン』という気持ちは勿論あったが、それよりも『ありがとう』の気持ちのほうがずっと大きかった――。







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