幸せは繋いだ手の中に

□白い季節。
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『ココに車停めて少し歩くぞ。』






車を数十分程走らせた後に着いたとある駐車場。

そこは勤め先と自宅周辺以外まだ未知の地域がかなりある私にとっては当然ながら初めて来る場所だった。


見上げればそびえ立つビルの数々。

まだその一画一画に照明が点いている為か遥か向こうに見える筈の星空は見えない。

吐いた白い息がフワリと浮かんでは光に吸い込まれるように消えていった。





「寒くねぇか?」

「ん。大丈夫です。暑さには弱いですけど寒さは結構耐えられるほうかなぁ。徒歩で出勤する事が多いですしね。」


私は雨が降ったり夜勤の時以外(防犯上)は基本徒歩で通勤している。

今日も例外ではなく防寒対策もバッチリだ。

足腰を鍛えるとか筋力の維持という目的もあるけれど、季節の変化を肌で感じるにはやはり歩くのが一番。


夏に青々としていた街路樹は秋には葉の色が変わり行き、冬に朽ちる。

だけどその朽ちた枝先からまた小さな緑が芽吹く。


その小さな変化を目にした時はきっと誰よりも早く春を見つけたんじゃないかと嬉しくなるから。






「…俺は仙台よりコッチの生活のほうが長いから寒ぃのダメなんだよなぁ。あ゛ー寒っ!!」

「大袈裟な…。まだ氷点下にはなってないと思いますよ…?」



そんな会話を交わしながら政宗さんの半歩後ろを付いていく。

政宗さんも今はさすがにコートを着ているけどやはり寒いらしく身を縮こませていて両手はポケットの中だ。





「…あの、政宗さん、良かったらコレ使ってください。」

「Ah?……は――?」



そう言いながらするりと首元に巻いていたマフラーを外して、立ち止まって私のほうを振り返った政宗さんの首元目掛けて少し背伸びしながらクルクルと巻き付けて結んだ。

その私の行動に政宗さんは一瞬たじろぎながらビックリしたような顔してたけど、無いよりはマシかと思って。


だってホントに寒そうなんだもの。

…色がちょっとパステルピンクだけど暗くて見えないだろうからそこは気にしないでね。




「…キツクないですか?」

「…紗織、これじゃあオマエが寒いだろ――。」

「ん?平気です。コートのボタンを上まで留めてしまえば寒くないから。…ね?ソレ、あったかいでしょ?」


「…ん。あったけぇ――。」




そう言った政宗さんは目を細めながら口元までクイッとマフラーを上げる。

私もあったかいなら良し、と少し嬉しそうに見えた政宗さんにホッとしながら衿元の釦を一番上まで留めた。




「…紗織、手袋も片方寄越せ。」

「…はい?手袋?片方?」



そう返事を言い終わるか終わらないかのトコで私の右手にあった手袋は剥ぎ取られるようにスポーンと政宗さんに奪われてしまう。

キョトンとする私はただ政宗さんの行動を見ていたのだが、『寄越せ』と言ったワリには政宗さんが着けるワケでもなく(まぁサイズ的に小さいだろうけど)、私の手袋はそのまま政宗さんのコートのポケットの中へ入ったのでますますキョトンとするばかり。




「オマエの右手はココな。」

「え…?」




おもむろに重ねられた右手は政宗さんの左手に繋がれ、次にはコートのポケットの中にグイッと押し込まれて――




「な…?あったかいだろ――。」

「う、うん――。あったかい―― 「…ありがとな。」…っ!?」



まるで“マフラーの御返し”と言わんばかりの政宗さんの行動には手に伝わる温もり以上の熱が顔全体に集中してしまい、どうにもできないくらいの恥ずかしさでいっぱいになる。


『ありがとう』の言葉と共に頬にチュッと小さなキス――。





そして茫然と立ち竦む私の手を引いて『行くぞ』と政宗さんが歩きだせば、さっきの半歩後ろというワケにもいかず横並びで寄り添っているようなカタチになるわけで――


この白い息だけじゃなくて顔や頭からも湯気が出てるんじゃないかって思うくらいパニック状態の思考を正常に戻そうとしても、夜道を走る車が向かい側から来て横を通り過ぎていく度にヘッドライトがこの火照った顔を照らしていくものだから現状は厳しい状態が続いている。

それに隣の政宗さんから見られないようにますます視線は足元をさ迷うばかり。



そんな状態の私を知ってか知らずか上機嫌に口笛を吹き始めた政宗さんをチラリと横目に



…もっと冷たい風が吹いてほしい――



と私が切実に願っていたなんて多分政宗さんは知らないだろう――。






-10℃くらいあっても


今なら平気な気がする――。











∽∽アトガキ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ 一応12月末くらいの時期設定のお話です(^_^;)
政宗さんは車を降りてからずっと紗織さんと手を繋ぐタイミングを図ってました(笑)




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