幸せは繋いだ手の中に

□白い季節。
2ページ/3ページ







「ごめんね政宗さん、待たせちゃって…」

「No problem,10分も待ってねぇよ。丁度着いた時にオマエから電話きたしな。」



病院裏の職員用出入口から少し離れたトコにある片側1車線道路の歩道脇に停車してあった1台の車。

ブルーメタリックのスポーツカーは、夜が更けたこの時間でも色がよく映えていたのですぐに目についた。


そしてその車の持ち主である政宗さんは車の外に出ていて、背をその車体に預けて煙草を吸いながら私が来るのを待っていたようだった。



「今日はやたら寒ぃから早く乗れ。」



そして白い息を吐きながら車のトコまで走ってきた私を押し込むようにそのまま助手席のドアを開けて車内へとエスコート。



暖房がきいた暖かい車内に一瞬で冷えてしまった身体がホッとする。

…それに『やたら寒い』と言いながらもコートも羽織らずに外へ出て待っててくれた政宗さんの優しいトコも――。





そうして煙草を吸い終わった政宗さんも運転席に乗り込んできた。




「腹減ったろ?」

「お腹?うん、かなり空いてます。あ、そうそう、夕方くらいにスッゴイ音でお腹鳴っちゃったんだけど、ユキちゃんママがコソッと飴玉くれたから何とかなりました。」


ちなみに“ユキちゃん”とは私の受け持ちで数日前に肺炎で入院した子。

経過は日が経つ毎に良好に推移してるからあと2、3日で退院になるだろうと真田先生が言ってた。




「…oh,そりゃ相当スゲェ腹の音だったんだな。…で、『何とかなった』つーことは食ったのか?」

「食べた食べた。すぐ食べた。マスクしてるからバレなかったし。」

「プッ!!そういうのダメなんじゃねぇのか?」

「うん。ダメなんだろうけど隠れて食べました。」

「…何かスッゲェ紗織らしいっつーカンジすんな。…で、今食いたいのは何だ?まだドコに行くか決めてねぇんだよ。」

「うーん、お腹いっぱいになるのなら何でもいいです。…できればあまり緊張しないようなトコで…――」

「緊張?…あぁ、この前の店は堅苦しかったもんな。ホントに『腹いっぱい』になりてぇならそういうトコでも美味い店は知ってるから連れてってやるよ。…にしてもオマエは変に背伸びしねぇヤツだよなぁ――。」




『え?それってどういう意味ですか!?』って聞けば、『素直だ』と一言言われ、それから含み笑いが延々続く。


絶対に“素直”という言葉以外に何かを思ってる。

だけど私はどこが政宗さんの笑いのツボだったのかが全然分からなくて“?”ばかりが浮かんでいた。




『んじゃ今日は色んなのが食えるような店にすっか。…ん?オマエ何拗ねてんだ?そーいうトコも――ククッ…。』と言われながらブオン…とエンジンを唸らせて走りだした車の中で、私は政宗さんから見ても明らかに拗ねている顔をしてたんだろう――



だって政宗さんがいつまでも笑ってるから――。






.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ