君のその手を

□20章:決意と約束を形に。
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「…じゃあお手数掛けますがよろしくお願いします。」

「はい、ではお預かりしますね。渋滞などに巻き込まれなければ向こうの方には夕方に着けると思いますので。」








年末まであと数日と押し迫っていたある日の休日、渚のマンション前に運送業者の4tトラックが一台止まった。


出迎えた俺達との挨拶はそこそこにして早速運搬作業に取り掛かった2人の男達。

流石専門業者と言うべく、2人掛かりの息がぴったり合った連携で手早く荷台に冷蔵庫や洗濯機などの家電類やベッド等が積まれていき、ものの1時間も経たぬうちにもう渚の実家へと出発する所である。


搬出作業を手伝わねばと一応気合いは入れていたものの俺の出番全く無し。

ちょっとラッキー。







――同棲が決まってから俺達の生活の拠点は渚のマンションから俺のマンションへと移り、個人で運べる程度の物は少しずつ空いた時間を利用して運んだ。


そして今日は最終日。コトを着々と順調に進める事ができて一つの山場を越えそうな所まで来ているが、当初頭を悩ませた点が1つあった。それは家電類をどうしようかというコトで。

冷蔵庫や洗濯機、掃除機や炊飯器、電子レンジ等は同棲先である俺の家に既にあるし、ハイスペックな物ばかり揃っている。

でも渚の使っていた家電類も1年も使用しなかった為『やっぱ処分するには勿体ない』となった訳で色々と宛てを探してみようかと言っていた時、ちょうど渚の弟が春から就職するという話が舞い込んできた。

そして『一人暮らしをするから譲れる物は譲って欲しい』と申し入れがあり、それならばと一旦実家のほうへ送り保管してもらう事になったのだ。


あの種類じゃ何も買い足す必要などないくらい揃ってるから弟としても親御さんからしてもちょうど良かったんだろう。

しかも、渚の母親に一緒に住む旨の了承を得る為に電話で話した時、『結婚前に一緒に住むなんて…』なんていう言葉を内心覚悟はしていたのだが、そんな言葉は聞かれず、『ホント助かるわ〜』とか『元親さん、渚でイイの!?』…なんてコトばかり言われた。


俺に言わせりゃ渚のほうが俺には勿体なさ過ぎるくらいなんだけどな。





そしてスッキリと物がなくなったこの部屋とは今日でお別れ。

渚が物を運びながら掃除も同時にしていたお陰で最後に床をモップ掛けする程度で済みそうだし、渚が今それをやっている。




約半年…か。





短いなれど思い出がいっぱい詰まったこの部屋。


部屋だけじゃない。



さっき見送った2人掛けのソファも

2人で寝るには少し狭かったベッドも



運び出されるのを見ていた時はやっぱり切なく感じてしまい、ふと渚を見たら渚もそんな顔をしていた――。






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