君のその手を

□20章:決意と約束を形に。
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「…よし、と。早く終わりそうだから昼飯食ってから帰ろうぜー。何食いたい?」

「あ、イイですね〜。んー、んじゃお蕎麦にしません?」

「プッ、“引越そば”かよ。」

「そうそう、ベタ過ぎます?あ、急にお腹空いてきたー。最上屋さんの温かい天そば食べたいなー。うーん山菜そばも捨て難い…それに食後に出てくる玄米茶が美味しいんですよねー。」

「まぁベタでも別にイイんだけどな。…ほら手ぇ止まってんぞ。食いもんの妄想広げてねぇでさっさと終わらせちまおーぜ。」

「…はーい。あ、んじゃもう電気使わないからブレーカー落としてもらっていいですか?」

「…俺は結局そういう役しか無ぇのかよ。」



ブツブツ言いながら言われた通りに玄関の壁上のトコにあるブレーカーへと向かう。

そして制御盤を開けてブレーカーを落とすと、離れたリビングから渚の声が。

扉は開けっ放しだったからその声もちゃんと耳に届いた。




「……んじゃ重要な役目をお願いしてもいーですかー?」

「あー?何かまだ残ってンのかー?」





「…ちゃんと私を持ち帰ってくださいねー。私はもう帰るトコないんですからー。」

「は…?」




その言葉を聞いて少し早足気味にリビングに戻ると渚は背を向けたままチャッチャカとモップを動かし同じ所だけを往復してて、“ああこれは自分が言った事に自爆した型だな”――なんていうのがまるわかり。





「…俺がオマエを置いていくなんてあり得ねぇんだよ。まぁ重要な役割には違いねぇけどな。」



これからは帰るトコは一つだけ。

同棲するにあたって俺は迎え入れるほう(そりゃもう両手広げて)だから然程気にしてはいなかったけれど、彼女にすれば多少なりとも勇気が要る事だったかもしれない。

…やはり何事も新しいコトに踏み入れる時は不安とか心配に思うコトがあるのだし。



だけど俺も半端な気持ちで同棲しようと言ったワケではない。

結婚という言葉を口にしたワケじゃない。






今日が一つの転機だとしても

大丈夫


きっとこれからも

ずっとこれからも

一緒だという約束の証を



君へ贈ろう――












「…コレ、やる。」

「…?」




渚の目の前に差し出した小さな箱。

買った時からずっとジャケットのポケットの中に忍ばせていたモノはホントは今日の夜にでも渡そうかと思っていた。

でも夜まで待つより何か今のほうがベストなタイミングのような気がし、自然と手がポケットの中を探り掴んでいた。



「先生…コレ…。」

「約束はちゃんと形にして残しとかねぇとな。…ほら手ぇ出せ。」


パカッと箱を開けて“証”を取り出す。

もうそれが何なのか分かった渚はおずおずと左手を差し出し、俺はその手をゆっくり引いて薬指へとソレを嵌めた。



「…綺麗…それにピッタリ――。」

「おう。寝てっ時にサイズ測らせてもらったからな。」

「寝てる時!?…全然知らないんですけど――。」




よし買いに行くぜぇぇ!!と政宗から紹介してもらった店へと一人で出向いたはいいが、サイズが全く分からないという事にその時気付き、『手持ちの指輪があればサイズが分かりますよ』…と店員に言われても渚は1つも持ってなかった。

…で借りたのがリングサイズゲージの束。


そして爆睡している渚の手をこっそり拝借し、真夜中に薬指のサイズを図ったというワケだ。

ピッタリじゃなきゃオカシイ。





「…気に入ったか?」

「気に入るも何も…嬉しくて言葉が出ないです――。それにこの石の色、凄く綺麗――。」

「だろ?」





そっと日にかざした左手の指の付け根にはプラチナの輝き。

そして指輪の中心には空の青と海の青を混ぜたようなネオンブルーが埋め込まれている。


ダイヤモンドはありきたりだよなぁ…何か変わったモンを…と、当初は悩みに悩みまくると思っていたが『コレだぁぁ!!』と色に一目惚れして即決。

何か知らんがダイヤより希少な石らしく年々入手困難になっているモンらしい。

食い入るように見ながら聞いていた店員のウンチクも即決した要因の一つだった。(レア物にはどうも弱い)。






そして婚約指輪には立爪タイプが一般的らしかったがそこは突っかかりが無いタイプで依頼。


仕事の時に外すのは職業柄しょうがないとしても、普段着けていても違和感ないようなモノを贈りたかった。

グローブをそのまま着けてツーリングにお供できるようにと――。



…で、出来上がって仕事帰りに受け取りに行ったのはつい昨日の事だった。





「…元親さん、ありがとう――。」

「いーや。気に入ってくれりゃそれでイイさ。」



ああホント嬉しそう。


俺はいつもこんな顔を見たいが為に奔走するのだが、今日はやっぱり感じるモノがひと味もふた味も違うし深い。渚も同じような想いだったんだろう。

頬に流れた一筋の涙が証明してた。



「…ほんっと、…嬉しい――。」

「そんだけ喜んでもらえたら何も言うコトねぇよ――。」



指の腹で優しく涙を拭うと背伸びした渚にギュウっと抱き付かれ、負けじと力一杯抱き返せば『く…ぐるじぃ…』と蛙が潰れたような声出すからプッと吹き出し、笑い声が部屋中に響いた。












――そうして、台所のシンクも床のフローリングもピッカピカに掃除し終わったトコで最後にこの部屋に告げる――



“ありがとう”と“さよなら”を――




そしてまたこの部屋に入った住人が幸せな時間を過ごせますように――



という願いだけを残して二人でドアの鍵を閉めた――。







∽∽アトガキ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ お引っ越し完了です(^o^ゞ
ついでに婚約指輪貰っちゃってくださいw
補足ですが石のモデルはパライバトルマリンです。(管理人の好みでチョイスしただけですが(^_^;)ホント綺麗な石です)





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