君のその手を
□20章:決意と約束を形に。
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ガランとした部屋の中でやる事が見つけられない俺はベランダに出てとりあえず一服しようと煙草に火を着けた。
以前この場所にズラリと並んでたプランターは全て既に引っ越し済み。
来年は俺ン家のベランダがトマトやらインゲンやらその他諸々で青々しくなるだろう。
またゴーヤカーテンするんだろうか。
…『食べれてその上エコにもなる』って感動してたからありゃ確実植えるだろうな。
「…よしっ、と。…あ、忘れてた。ねぇ先生ー、カーテン外してもらえますか?」
「ん?ああ。オマエ届かねぇもんなぁ。…待ってろコレ吸い終わったらやってやっからよ。」
部屋の中から仕事の依頼。
あと半分は吸えただろう煙草を一吐きした後、携帯灰皿に押し付けて部屋に戻った。
ちなみにコレが今日の初仕事。
何もしないで終わってはホントに拍子抜けしてしまうし休みを合わせて今日にした意味がない。
足台になりそうな椅子はもう既に無いから渚には絶対無理な高さ。対して俺は手を伸ばせば余裕で届く。
これは確実に俺にしか出来ない仕事だ。
「なぁコレどーすんだ?」
「んー、洗って仕舞って置こうかなって思ってました。」
「フッ…だな。いつか使うかもしんねぇしな。」
手にしている空色のカーテンは渚みたいだと見るたびに思っていた。
ソファに寝そべって外を眺める時はいつもこの綺麗な色したカーテンが視界に入っていて、夏の日には風に吹かれて静かに揺れ、暗い夜も真っ青な空を広げていて――
それに、晴れの日には嬉々としてバイクに跨がって空の下に飛び出していく彼女が似合うのはやっぱり“この色”しかないと思う。
『処分しよっかな』って言われたら俺はきっと反対した。
ホントの理由は照れ臭いから言わねぇが、『どうして』と聞かれても『勿体ねぇから』と適当な理由を付け阻止しただろう。
…アレ、この長さって――
「…、コレもしかして俺ン家の寝室のカーテンと大きさが同じくれぇじゃね?コレに変えねぇか?」
「え?…あ、そう言われればそうかも。うーん、でもなぁ…コレ遮光カーテンじゃないから朝眩しいかもしれないですよ?今掛けてあるのって日が昇っても日射しが入らないくらい遮光度高いですよね?」
「まぁ1級遮光だけど…俺はコレがいい。」
「…当直明けとかでは寝辛いかもしれないですよ?」
「…オマエはどーなんだよ。」
「自慢じゃないですが場所も時間帯も限らず寝れます。」
…そりゃ知ってる。
自慢に値するくらい寝落ちも早ぇぞ。
…まぁ俺が寝落ちギリギリまで抱いてるのが原因なんだろうけど。
「ンならOK。俺も基本そうだし。医者をナメんなよ。」
「な、ナメてないですってばっ!! …もー、言い出したら聞がねぇんだから――。」
「あ?何か言ったか?」
「いーえ、なーんも。」
…思いっきり訛り出したクセに。
でもまぁ密かにお気に入りだったカーテンは、俺のふとした気付きによってお蔵入りすることなく場所を替えてまた部屋を明るく彩ってくれることになりそうだ――
カーテンをキレイに折り畳んで紙袋に詰め込む。
一人で寝なきゃなんねぇ時、寂しい気分もいくらか薄れてくれるだろうと小さな期待も一緒に込めながら――。
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