君のその手を
□19章:夢の続きを。
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『元親さん――私とずっと一緒にいてくれますか?』
目の前に立つ渚は純白のウェディングドレスを身に纏い、色とりどりの花のブーケを携えて薄いベール越しに俺を見上げてた。
…はて?
これって夢だよな…?
そう早い段階で夢だと悟ったのは実際色んな段取りを全然組んでいないからだ。
情報収集がてら結婚情報紙と言われる雑誌を渚が1冊買ってきただけだし、俺自身まだ読んでいない。
まぁでも、夢なら夢でイイんだけれど、良い夢には違いないんだけど、渚の格好やこのシチュに合わせたタキシードなんかを着てりゃイイのに、なんでか俺は仕事着のスクラブに白衣姿。
そんな自分に軽くショックを受けた。
――と思いつつも、聞かれたなら答えてやらねぇとな。
『あったり前だろ?“俺はずっと渚と一緒にいる”って約束したじゃねぇか。』
夢だとわかっていてもその渚からの問いに真面目に答えた。
だってその答え1つしか俺は持っていない。
…というより何でこんなフライング過ぎる夢を見たんだろう。
…あぁそうか。
きっと、さっき政宗達に報告したからだ。
『来年渚と籍入れる』って――。
一時はどーなるコトかと思った俺ん家での飲み会。
正直言ってアイツらは上手くいかないんじゃないかってくらいの空気が流れた。
まぁ政宗が謝ったトコで“お友達止まり”かもな――、と俺と渚は思っていて、どうやってこの場の雰囲気を盛り返そうか、いっそのコト諸悪の根元である政宗は帰しちまったほうが早ぇか――なんて頭を悩ませてた時――
リビングに戻ってきたアイツらは仲良さげに手ぇ繋いで(無理矢理繋がされてる感は多少あったが)入ってきやがった。ホント予想外。
…で、洗面所で二人で話した内容ってのを紗織の携帯の写メを見せられながら報告され、渚と共にひっくり返りそうになった。
そっからはもう大盛り上がり。
どうにもこうにも『スッゲー!!そんなコトってあんのかよ!?』とそのどんでん返し的な出来事に驚きは隠せないし、何より上手くいったってのが主催した側からすりゃあやっぱ嬉しい以外に言葉がなかった。
声を張り上げるにもやっぱこういう風に笑いが混じりながら騒ぐほうがイイに決まってる。
それに、よほどアイツらが上手くいったコトが嬉しかったらしい渚は、普段のストッパーの役目は早々に放棄したらしく今日はかなり飲んでた(相変わらず惚れ惚れする飲みっぷりで)。
…まぁ俺も一旦は胸クソ悪ぃ気分にはなったが、ニヤけまくりの政宗の顔を見た途端忘れたがな。
なんか素直に応援したい気分になった。
…でイイ感じに雰囲気が回復したトコで『まぁ俺らは先に結婚させてもらうけど、披露宴にはオマエら2人で来いよな。別れたりしたら呼ばねぇぞ。まだ何も決まってねぇ白紙の状態だけど、紗織は余興で政宗はスピーチ頼むかなぁ。』てなカンジで冗談まじりに政宗達に報告したわけで。
…そしたら即座に声を揃えながら『任せろ(てください)!!』と返事が返ってきた。
勢いで言ったのに何か快く引き受けてくれたからコイツらは役決定。
なんて友達甲斐のあるヤツらなんだろう。
普通はスピーチも余興も頼まれた時には一瞬考え込むとか困るモンだと思ってたのにあの二人は例外らしい。
やっぱそういうトコも“馬が合ってる”ってコトなんだろう。
『…じゃあ誓いのキスしてくれます?』
『おー、いくらでも誓ってやるぜ。』
いや〜この夢最高。
こんな予行練習なら何べんでも見たいと本気で思うくらいのお得感。
…だが今度見る時は是非俺もちゃんとした格好を望む。
練習すんならより本番に近いカタチがイイ。
変われ〜変われ〜と一応念じてみたけど結局変化は無く、仕事着仕様のままだった。
それでもスッゲェ手に汗かいてるしドキドキ感もリアルにある。
本番でヘマしねぇようにちゃんと練習はしとかねぇとな。
ゆっくりと一歩前に進み出て――
ベールをそっと上げる
肩をそっと抱き寄せて――
愛する君に誓いのキスを――。
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