幸せは繋いだ手の中に

□近付きたいと思うほど。
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「…政宗さん…小十郎さんは『仕事が残ってるから』って言って帰られたんですが…。」


「…Ah?…そうか。…悪かったな、気ぃ使わせちまってよ。」




『…あとコレを政宗さんにと――』と言って渚から手渡された紙袋には暁とたまご酒。

そして渚がもう片方の手に持っていた袋はズシリと重そうで立派な葱が4,5本飛び出していた。






――キッカリ定時で帰宅した俺は、小十郎からの着信を思いっきり仕事絡みの話だと思い込んでシカトした上にリビングのソファに携帯を置きっぱなし(というか放り投げてた)。

そして念入りにシャワーを浴びた後はクローゼットをガラッと全開にし、鼻唄歌いながら身支度を整え――。



…で、小十郎からのメールを読んだのは家を出る直前。

酒を会社に忘れたのをソコで思い出し、しかも紗織からも『今、家を出ます』というメールが来ていて、慌てて愛車に飛び乗って元親のマンションに向かった。









…すると案の定その家の前でなにやら押し問答しているヤツが。

近付いて行けばそれはやっぱり小十郎で、シドロモドロしながらひたすら遠慮していた。で、出迎えたらしい渚も負けじと説得していて、しかも家の中からは紗織の声が聞こえた。





やっぱりこうなったか…――



と一つ溜め息をついた。

予感的中って言ってイイだろあの状況は。



そりゃ小十郎だって俺を尾行してきたワケじゃねぇけどさ。

全部忘れてた俺が悪ぃんだけどさ。

電話をシカトした俺が悪ぃんだけどさ。






「ゴメンナサイ…何か私、咄嗟にオカシなコト言っちゃって…――」


リビングのソファで勝手に寛いでた俺のトコに渚がコソッと耳打ちするように囁いた。

多分さっきのコトを言っているんだろう。



「…兄っていうコトか?ンなコト気にすんな。小十郎も別に気ぃ悪くしたワケじゃねぇと思うしよ。まぁ…ありゃ気まずくなっちまったようなカンジだろうな。」

「『気まずく』…って?」





後のコト考えずにポロッと言っちまった俺も俺だが、冷静になって考えてみれば、一晩中小十郎を『兄さん』と呼ばなければならなかったかもしれない。






…今更『兄さん』なんて呼べるかっつの。

想像しただけで顔から火が出るっつーの。

“ずっと一緒にいた存在”であるからこそ気恥ずかしくて言えねぇよ。




…まぁでもどっかで伝えてみたいっつー気持ちが俺ン中にあったから言っちまったんだろうがな――。





「ホント気にすんな。小十郎も気ぃ遣ったんだろうし、俺も『今日は早く帰って休め』つったからな。渚が気にするコトじゃねぇ。…しかも、小十郎の目の前じゃ紗織を口説き辛ぇだろ?」


「…あ、それもそーかもですね…――。」




『なるほど』というように頷いた渚はその後、俺に向かって親指をグッと立てて『今日は頑張って!!』的なgestureをした。

で、それに対してニヤリと返す俺。






「…あれ?政宗さん、お兄さんは?」


…と、そこへ奥のキッチンから出てきた紗織がリビングに俺と渚以外に人が居ない、とキョロキョロと見渡しながら俺達のトコに来た。


「Ah?…にに、兄さんはな、用事があるからっつって帰っちまったよ。」



ヤベ…やっぱ言い馴れねぇからガッツリ噛んじまった。


「あら残念…わざわざ野菜を届けてくれたんですよね…?」

「…別にイイんだよ。食わせてぇだけだしな。」




「…でも素敵なお兄さんですね。優しそうな雰囲気してました。」

「……そ、そうか?」





オイオイ…思わぬライバル登場かよ。


というより小十郎に“優しそう”なんていう印象を持ったヤツなんて今までに多分居ないだろう。



ホントはアイツ、おっかねぇんだぞ?

本気で怒るとな、頭から角が生えて、その角と角の間に電流がバチバチ見えんだぞ?

首根っこガッって掴んで引き摺られんだぞ?







「うん、なんかやっぱ政宗さんと似てるカンジした。」

「…ha?…俺?」


「うん、そう。政宗さんも優しいですもん。」

「そ、そうか…?」





コイツは俺のドコをどう見てそう思うんだろう――


『優しい』なんて、…な――










『貴方ってホント冷たい人だわ』



『政宗が優しいのは最初だけだったわね』





別れ際に何度も聞いたそのセリフ――

別にソレは自分自身そう思っていたしそんな風な態度をしてきたから言われてもshockには思わなかった。






嗚呼、だけど――




『最初だけ優しかった』





なんてそんなセリフを紗織からは聴きたくない――





今更過去を反省したってどうにもなんねぇけど


その抱いた感情自体、自分勝手で我が儘なんだって分かってるけど







…俺に何が欠けてたのか今なら痛いくらい分かる気がする――。







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