幸せは繋いだ手の中に
□近付きたいと思うほど。
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※元親先生視点。
そして午後8時を過ぎた頃――
仕事を終えて帰宅した俺が目にした光景は少し予想に反したモノだった――。
「おーぅ、ただいまー。あ゛ースッゲェいい匂い…ってまだ始めてなかったのか?『食っててイイ』っつったのに。」
「お帰りなさい先生。あのね、『折角だから待ってる』って政宗さんと紗織ちゃんが言ってくれたの。」
リビングへ入ったトコで、玄関が閉まる音で出迎えに来た様子の渚と最初に鉢合わせしたのだが、奥に目をやればコタツの上に蓋がしたままの土鍋の蒸気口からユラユラと湯気が出ていて、並べられていた皿もキレイなままだった。
「あ、元親先生おかえりなさーい。」
「too late.…つーか俺らもう飲んでっけどなー。」
「…いや、政宗が待ってるなんて最初っから信じてねぇから別にイイけどよ…何かもう既に五割程デキ上がってねぇか…?“オマエら”。」
「ンだってやっぱコレ美味ぇもんなぁ紗織〜。」
「ンだよ〜。コレねスッゴイ美味しいですよ政宗さんっ!!やっぱ仙台って最高っちゃね!!」
「当然だぜっ!!hahaっ!!」
「……。」
…いきなりそのテンションに出迎えられても困るんだが。
外から帰宅したばかりの俺がついていけるハズがねぇだろ。
しかも俺、仙台行ったことねぇし。
…にしても、何か知らぬ間にやけに仲良くなってねぇか?
何だあの政宗のハジケ具合。
まぁでも…意外といいコンビなんじゃねーだろうか?
酒の勢いも手伝ってか、ホント締まりのない顔しながらスッゲェ楽しそうに笑ってる。
あの政宗が。
「はい先生も座って座って。先生は食べながら飲みますよね?最初はビールいきますか?」
コタツを囲んでの和気藹々とした空気に半ば茫然気味で突っ立ったままだった俺の背を渚が押した。
「ん、あぁ、最初はビール飲みてぇな。 …つーか渚、“アレ”さ、どーなってどーなったんだ?」
途中経過を知らぬ者からすれば非常に気になるあの2人の距離感。
何がどーなってどーなったんだろうと気になるのは当然で、ビールを冷蔵庫に取りに行った渚を追うようにキッチンへ向かいコソッと耳打ちした。
「あー…えっとね、正確に言えば最初は政宗さんが紗織ちゃんに飲ませるカンジで始まったんだけど…」
「あー…逆に飲まされてるってか?」
「そうなんですよ…紗織ちゃんも見掛けに寄らず結構ザルだし…それに、ホント上手なの…。」
…最初の頃の俺と渚みてぇじゃねぇか。
人はホント見掛けに寄らない。
渚もそうだが紗織もそうなのだ。ほわほわ〜と酔う程度でそっからがかなり長い。
見るからに政宗もソレに騙されたクチだろう。
紗織を酔わせてどうこうしたいっつー気持ちは分かるが、絶対に撃沈されるぞ。…確実に。
…だって紗織は意外な経歴と素性の持ち主で、それを渚から聞いた時と職場の忘年会で目にした時は俺も固まってしまい――『政宗には勿体無ねぇかも』って思った程――。
でもまぁそんな2人はちょっと置いといて、まず飯だ。
政宗の横にどっかり座ると、“待ってました”とばかりに渚と紗織が2人同時に鍋の蓋を開けた。
ムワ〜っと立ち上る湯気の下に現れたすき焼きときりたんぽ。ちなみにすき焼きを食いたいと言ったのは俺で、女二人の意見はやはり郷土料理系で一致したらしい。政宗は『なんでも食う』だった為にこの2種類だけとなったのだが、もしリクエストがあったらもう一つ鍋が置いてあっただろう。
そうしてとりあえず『乾杯ーっ!!』と一声を上げて其々手に持ったグラスなり猪口なりをカチンと合わせた後はすぐさま鍋争奪戦に突入。
皆よほど腹が減っていた、ってのを裏付けるかのように鍋の中身は無くなっていくし、紗織も渚もあっさり風味のきりたんぽだけに留まらず、遠慮なしにすき焼きの肉を奪っていく。
野菜の追加、肉の追加、挙げ句の果てには締めのうどんが投下されたものの、全てキレイに平らげた。
「…なぁオマエらっていっつもこんなに食うのか…?」
「え?だってお腹空いてたもんねぇ。」
「え?だってちゃんと食べないと。なんてったって身体が資本だしねぇ?気取りながら食ったってうまぐねぇ(美味しくない)よね。」
「そりゃそうだが…彼氏の前だとか男の前だと気取ってあんま食わねぇモンじゃねぇのか?すぐに『お腹いっぱーい』って言うヤツ多いぜ?」
「…別に気にしたコトないですケド…ねぇ先生?」
「あ?俺は全然気にしねぇって。牛丼だって“大盛り”をペロッと食うもんな。しかも何でも美味そうに食うからホント奢りがいがあるぞコイツらは。」
「じゃあ渚さん、次は別腹いっちゃいますー?」
「ん、いっちゃおっか!!」
「……ほらな。全然気にしてねぇだろ?」
「Ah…あんだけ食っててまだ食うってのがスゲェな…。」
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