幸せは繋いだ手の中に

□近付きたいと思うほど。
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そうして元親が帰ってくるまで3人で少し待つコトに――



紗織と渚は昨夜一緒に深夜勤で、昼間寝てから準備をそれぞれしていてくれてたらしく、紗織は俺が『是非食べたい』とrequestしたレアチーズケーキをちゃんと作って来てくれたようだし、渚は鍋の担当だったらしい。


そんでもってテキパキと2人でやり取りしながら段取りや皿の用意だとかをしてる為に俺の出る幕は全くなく、手持ちぶさたに小十郎が届けてくれた酒を紙袋から取り出してコタツの上に置いた。





…とソコへ紗織がカセットコンロをコタツへと運んで来た。

しかも2台。




「2台もどうすんだ…?」

「今日はね、すき焼きときりたんぽ鍋にしたんです。だから2台なんですよ。…ってアレ?なんでコレ点かないのかなぁ?」




置いて早速、試用点検という感じでツマミを回してみた紗織。

だがカツン、カツンと空振りしてばかりで何度やっても火は点かなかった。



「Ah?点かねぇって?…見せてみろ。」



ソファに預けていた身体を起こして紗織の隣に近付く。

俺は確実に意識しているけど、紗織は目の前のカセットコンロに集中したっきり気にもしていない様子。


でも最初の最初、警戒心丸出しだった時のコトを思い出せば、今は大分距離が縮まっているのは確か。


仕事が不規則な為、前回から会う機会がなかった今日までの間、しつこくない程度に何気ない日常を綴ったメールを送り、それをまた返信されて――、というカンジでお互いにcommunicationはとっていた。


紗織は結構筆まめで、コト細かで丁寧な長文メールを送ってくれ、俺も仕事の合間にコソッと返信したりして、今日の予定が決まって『楽しみにしてます』というメールをもらった時は僅かながらも“望み”というものを感じた。

…で、『私、デザート担当になったんですが、政宗さんはレアチーズケーキとか大丈夫ですか?得意なんで作っていこうかと思ってたんですが…』なんて聞かれた時は、即座に『Favorite food!!』と返信。


俺の好物なんて知らない&教えていないハズなのに、ズドンと1発でドンピシャ。

ますます今日が楽しみになったのは言うまでもない。








「紗織…コレちゃんとカセットガスがsetされてねぇぞ…?」

「え? …ホントだ。コレじゃあナンボしたって点かないっちゃねぇ――。」



カパッとカセットガスのトコのカバーを開けてみればカチッと嵌まっていなくカタカタ揺れてるソレ。

これじゃあいくら点火ツマミを回したトコで点くわけがない。




…そんな単純で初歩的な間違いに、軽く気落ちしてた雰囲気の紗織は苦笑いを溢しながらふと隣の俺を見上げた為に、少し腕と腕が触れ合うその距離のまま斜め下に見える頭に軽くポンポンと触れた。



もう無条件でそういうトコも“モドコく”て仕方がなかった。








「よし…コレでOKだろ。」



カチッとレバーを下げてカセットガスをsetし、点火ツマミを回せば無事に機能したカセットコンロ。

…そして、『ありがとうございます。さすがですね。』と今度は微笑みながら言ってくれた紗織の頭をまた撫でてしまったのは、そんなコトくらいで褒めんなよ、と妙に照れ臭く感じたのもあったと思う――。



再び伸びて紗織に触れたその手が最初より髪をクシャクシャっとしてしまったのも無意識で――


『…うわっ!!』と、くすぐったそうに首をすくませた紗織を見て益々ポワッとした温かい気持ちを抱いた。

もう“キュン”としたモノに近い。






――優しさの裏にはいつも下心なんてモノがあって、ココぞという必要な時に意図的に出していたような気がする。


だけど今はそんな駆け引きなんかする余裕も計算染みた考えも浮かばない。



無意識に


ただ単純に


“そうしたい”と思うのと同時に“そうしよう”と手が伸びてしまう。





…そして、等身大で有りの儘の俺の姿で接しても笑って返してくれる紗織と触れ合っている時間はとても楽で居心地良く感じていた――。








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