幸せは繋いだ手の中に
□〜モドコイ〜
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本気で好きになった女なんて今までいなかった――
本気で愛した女なんて今までいなかった――
居なくて“寂しい”なんて
今まで思ったコトがなかったんだ――
俺は――
幸せそうな顔をした友が脳裏に浮かぶ。
付き合いの長いアイツが“あんな顔”をしてるのを初めて見た。
ベタ惚れしてた。
笑えるくらいに。
…でもその姿を羨ましく思った自分がいた。
他人の恋愛なんてどーでも良かったのに。
そして気付いてしまった。
俺にはあの二人の間にある温かい相思相愛の空気を感じたコトがないと。
ーー俺の恋愛ゴトには何かが欠けてる。
いつもどこか俺のナカの何かが冷めている部分があって。
付き合ってきたどの女も俺という人間じゃなく、“社長”という肩書きに惹かれて近付いてきたように思えた。
それでも洗練された美しさを持つ女は好きだから手を出してモノにした。
…だけど、やっぱりその女達も何か足りなかった。
“美人は3日で飽きる”っていうのは極端だけれど、長続きしたコトがなく。
一緒にいるだけで、隣にいるだけで喜びや安息を感じたコトなんてなかった。
…アイツらみたいに――
だから別れを寂しく思ったコトがない。
悲しく思ったコトもない。
平気なツラして『悪ぃな、オマエは飽きたんだ』なんて言って女を捨ててきた。
過去の立ち振舞いを振り返ってみれば、ほんと薄っぺらい言葉ばかり吐いてきた酷い男だったと自分でも思う。
まぁ女のほうも結構したたかなヤツが多く、俺と別れた数日後に別の男と腕組んで歩いてるのを見た時は思わず薄ら笑ってしまったが。
恋だの愛だの語ったセリフは結局はなんの深みも中身もないただの言葉。
何も残らない“ただの言葉”。
…だが、そんな恋愛ばかりを重ねてきた俺に一つの転機が訪れた――
元親の彼女に会って、『渚みたいな女が欲しい』と直感で思った。
こんなヤツ滅多にいない、と。
元親の女じゃなかったら一気に“落とし”にいってたのに。
絶対に俺の女にしてたのに。
隙があればかっさらってしまおうかと思った。
あんな滅茶苦茶イイ女を先に見つけた元親が憎たらしく思えてきて、冗談半分で渚にモーションかけたら案の定物凄い形相で睨んできた元親と、スパーンと『あり得ない』と返答した渚。
本人を目の前に『大好きな人だから』と言える渚も、照れを通り越して固まった元親も
…マジで羨ましかった。
こんなに想ってくれるヤツがいてイイな――、って。
こんな風に想えるようなヤツなんて俺にはいなかったな――、って。
『見つける気がねぇから見つかんねぇんだよ。外見じゃなく中身見ろ中身。』
元親の言った言葉が頭をよぎる。
『ま、渚みてぇなヤツに会うのはかなり確率低いケドな。とりあえず見つけてぇならホントの職業は隠すんだな。金持ちってだけでホイホイ寄ってくるヤツ多いしよ。』
『Ah?渚は違うっつーのかよ?』
『違ぇな。俺、家に帰れば“医者”じゃねぇし、旨い飯を毎日食わせてもらってるし。金を使わせられるコトが全然無ぇんだよ。それに一緒に居るだけで渚は笑ってくれる。『幸せだ』って言ってくれんだ。』
『『食わせてもらってる』って…オマエそれってヒモみてぇじゃねぇか?』
『ぁあ゛!?ヒモじゃねぇっ!!俺が言いてぇのはオマエ自身をちゃんと見てくれる相手を見つけろって言いてぇだけだっ!!』
『Hum…成る程な。職業隠すっていうのイイかもな。…にしても、これ以上ノロケんのは止めてくれ。』
『ハハッ、羨ましいだろ!?』
『テメッ…!!』
…そんなこんなで元親に皮肉とノロケ混じりのアドバイスを受けた俺は“真面目に恋愛をしてみよう”と心を入れ替えるコトにした――
…いい加減、小十郎の『早く嫁をもらってください』というセリフが混じった溜め息を聞くのもうんざりしていたからな――。
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