幸せは繋いだ手の中に
□〜モドコイ〜
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「…渚、久しぶりだな。」
急に背後から聞こえてきた男の人の声に身体がビクンと反応してしまった。
思わず振り返りながら頭上を見上げれば、右手にグラス、左手には白いお皿を持ったイケメンさん。
渚さんの名前を呼んでたので知り合いかなんかなんだろう。
…なんて思いながらいきなり登場したそのイケメンさんをジッと見ていたら、ガン見され…そしてニヤッと笑われた。
「あら、政宗さん。お久しぶりですね、今日はお一人ですか?」
「まぁな。元親にフラれちまってよ。」
「あ、そういえばそうでしたね。先生から『政宗と飲みに行く』って連絡もらってたのにすっかり忘れてました。…ていうかお会いするなんて奇遇ですね。」
「ったくよ、俺も滅多に出歩けねぇってのにこんな時に限って“緊急”なんてな。」
「しょうがないですよ。そういうお仕事ですから。あ、紗織ちゃん、この方は先生のお友達の政宗さん。」
「あ、元親先生の…あの、席空いてますし、立ってるのもなんですから宜しかったらどうぞ…」
「thanks.」
「ありがと紗織ちゃん。」
グラスとお皿を持ってるトコを見れば多分“ご一緒”したくて声を掛けてきたんだろう、と簡単に推測できたので席を薦めてみた。
そしてその“元親先生のお友達の政宗さん”は『ココ座ってイイか?』と私の右隣の席を聞き、『ど、どーぞ!!好きなくらい座ってくださいっ!!』と答えたら『Ha?』と一瞬固まった後に何故か爆笑した。
『紗織ちゃん、そんなに緊張しなくて大丈夫よ?』と渚さんもクスクス笑ってた。
ああもうっ…
やっぱりイケメンは苦手だわ…
と、いつものごとくテンパる自分に軽く自己嫌悪。
仕事の時のように割り切れればこんなコトないんだけど、プライベートになるとかなり人見知りをしてしまう。
特に男の人&都会の人は。
…いつまでも田舎気質から抜けきれないそんな私の性格を職場の同僚である渚さんは良く知っている。
そしてその渚さんも元親先生と数人の知り合いの人以外は人見知りをしてしまうそうだ。
でも今、渚さんが普通に話してるってコトは“このイケメンさん”とはかなり親しい間柄だということなんだろう。
「なぁアンタ、紗織っていうのか?」
「あ…ハイ、紗織です…。」
「…そんな警戒すんなよ。男が苦手なのか?」
「あ、いえ、イケメンで若い人が特に苦手なだけです…。」
「…Ha?…『特に』って…アンタ面白ぇな。」
「え?どこがですか?普通ですケド…。」
…するとまた爆笑された。
『渚、コイツ面白ぇな。オマエのほうがずっと若そうじゃねぇか。』って。
…私は全然面白くないですってば。
…だけどそれから怒濤の質問責めが続いた――。
「紗織は仕事なにしてんだ?」
「え、…と渚さんと一緒です。」
「Hum…『一緒』ってコトは“nurse”か。」
「今のトコに就職したのも部署も一緒で仲良くなったんですよ。歳は私の1つ下ですけど。それに紗織ちゃんは私と同じ東北出身だから気が合うんです。」
「あ?“東北”?ってドコの出身だ?」
「あ、あの、仙台…です。」
「oh…奇遇だな。俺の実家も仙台だぜ?」
「…え?ホントですか…!?あ、なんか嬉しいかもっ…!!コッチ出てきてから初めて同郷の人に会いましたっ!!」
「…やっぱオマエ面白ぇな。そんくれぇでtension上がんのか?単純過ぎんだろ。」
「え゛ー?だってホントに仙台出身のヒトと話したの久しぶりなんですよ?それに訛り出さないように喋んのって結構大変だしね、たまにポロっと出しちゃえば笑われるし…。だから時々こうやって喋んないとストレス溜まっちゃうんだもんねー渚さん。」
「フフッ、んだよねー。ほらほら政宗さんも方言で喋ってー?」
「Ah…どうりでコソコソお喋りしてたワケか…。何喋ってっかと思えば“方言talk”かよ。…まぁどっちかっつーと俺はコッチの生活のほうが長いからあんまり喋れねぇけど交じってやるよ。何かメチャクチャ楽しそうだしな。」
「渚さん仲間増えたねー。良がったねー。」
「んだねー。私も政宗さんが仙台だったなんて知らながったしねー。」
「…俺も渚が方言バリバリ喋ンなんて知らなかったぜ…。元親の前でも喋ってんのか?」
「んーたまに喋っても意味が通じないみたいだからあんまし喋んないですよー。私と紗織ちゃんが会話してると『はぁ?オマエら何喋ってっか全然わかんねぇぞ?』って言われるし。」
「…だよなぁ。まぁ俺には気にしないでどんどん使え。そうじゃねぇと紗織がヘンに緊張しちまうんだろ?同郷同士仲良くしようぜ?」
『OK?』と言いながらニヤリと笑った“イケメン政宗さん”はまさかの同郷で――
そこから私の緊張も少しほぐれたような気がした――。
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