君のその手を

□18章:幸せへの布石。
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「あのさ…、ちょっと頼みゴトがあんだけどよ…」


「…?何でしょう?」







その日の晩の夕飯を食い終わった後、かなり気になって仕方がなかったコトを渚に切り出して訊ねてみた。






「…家計簿見せてくんねぇ?」


「…はい?『家計簿』?…別にイイですけどそんなの見てどうするんですか?」





ズズッと茶を啜っていた手を止め、湯呑みをコトッと置いて立ち上がった渚の顔はかなり不思議顔だった。


そしてすぐに引き出しから取り出してきて、俺の目の前に出された1冊の家計簿。



見慣れた表紙の“ソレ”を渚は毎日付けてるのだが、中身はハッキリ言って見たことがなかった。

…というか関心をもってなかったし、逆に『よく毎日付けれるモンだ』と感心しながら横を素通りするくらい。



それに、『見てどうする』って言われるとそれはそれで返答に困る。

ただ確認したいだけだ。

渚が俺と付き合う前と後の月々の支出の違いを。





本来ならばこういう類いのモンは他人が見ていいとは思えないし、いきなり『見せろ』と言われると正直気分のいいモンじゃないと思う。

だから俺としては“いきなり言われても戸惑っちまうよな…”と思っていたのに、『はい、どーぞ』とすんなり渡された為にコッチのほうが戸惑うハメになった。





「どこか気になるトコあったらどうぞ。」

「あ…うん…」




…えっと確か渚がこの街に越して来たのが3月。

引っ越し代や敷金礼金、電化製品などで支出の額は多いがそれは当然と思える。

…つーかスッゲェ細かく書いてあるし分かりやすい。






…で、4月、5月。


この2ヶ月が基準になる。

家賃、水道、電気、ガス、携帯料金、ネット…食費に生活用品…ガソリン代…


まぁガソリン入れる回数が多いのは休みの度に走りに行ってたってコトだろう。

シーズンインの月だしな。





「…ん?オマエ、クレジットって全然使ってねぇのか?


「はい?使わないっていうか持ってません。」


「はぁぁ!?」


「私、現金主義なんです。便利なんでしょうけど、その便利さが怖いっていうか…基本的にローンも好きじゃないです。金利が勿体なく思っちゃうから大抵は貯めてから買うか頭金入れて短期間で払いきるようにしてますよ。車買うときはそうしました。」


「…あ、そ、そうか…――」




…何も言えねぇ。

だって俺、“ガンガン使う派”だったし…。

モノを勢いでカード払いで買って、後で後悔したことなんて結構ある…。




うん、俺も見習おう――。








…6月。


前の月と比較すればやはり水道光熱費類も食費もこの月からアップしている。

食費なんか特に。


そこはやっぱ二人分だからだろう。

だが、遣り繰りは凄く上手いと思う。

ほぼ毎日一緒に生活しながら旨い飯を3食キチンと食っているのに“この金額”で抑えられてるのは賞賛モンだ。


俺じゃ絶対できねぇな――。









「どうですか?どっかツッコミたいトコありますか?」


「いや…全く無ぇよ。完璧だ。」




…多分、俺がちゃんと家計簿を付けていたら渚はツッコむどころか呆れるコトは必須。

メチャクチャダメ出しされそうだ。









「…なぁ渚、話があるんだが――」




そう言いながらパタンと家計簿ノートを閉じて渚の目の前に返す。






あー…やっぱ“本題”を話す前ってのは緊張しちまうな…――



『話がある』っていうより、もう“お願い”に近いんだが――




…自分でも分かるほど出す声が変わってしまう。



そんな俺の様子を敏感に察知した渚はピッと背筋を伸ばした――。








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