君のその手を
□18章:幸せへの布石。
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…あ?
…何だコレ。
ある日、『暫く通帳の記入してなかった』というのをふと思い出した俺は、昼休みに病院の地下にあるATMコーナーへ。
そこで俺は“残高”を見て固まった。
キャッシュコーナーのドアの外に人が待ってるコトさえもすっかり忘れるくらいに。
…何でこんなに貯まってんだ?
これは…家賃の引き落とし。
これは…水道や電気代。
これは…携帯料金。
これは…ネット料金。
…で、これがクレジットカードで決済した分――。
マンションの家賃やネット料金など定額以外の項目を追っていけば、こんなに使ってなかったのか? って思う金額ばかりが記載されていて(特に水道光熱費)、現金の引き出しも月に1、2回のみだけだった。
毎月届く明細書なんかをちゃんと見てりゃこんなに驚くコトもなかったのかもしれないが、習慣上、その封書を開いて使用金額をチェックしたりするのをマメにはしておらず、いつも一角に置いてあるカゴにポンっと投げ入れてそのままってコトがザラ。
そして現金やクレジットカードの使い道といえば大抵“食費”や“交遊費”に使っていた。…のに使ってない。
元々月の給料がマイナスになるくらい使ったコトはないけれど、たまーに金額気にせずに“大人買い”したり、飲み代なんかを気前よく後輩に奢ったりして結構散財してたと思う。
しかも女が居た頃にゃ毎月のようにブランドもんのバッグやら時計やらをねだられれば買っていた。
クレジットの1回払いでポーンと。
…今思えば、それはゴネられて面倒くさい思いをしたくなかった事の他に“くだらぬプライド”からくる行動でもあった。
しかし、渚と付き合うようになってからは、渚が深夜勤で居ない時以外朝飯はちゃんと食ってるし、昼飯も弁当を持たせてもらってる。
で、夕飯も渚が準夜勤の時以外は家で食っていて、数えるホド(当直の時)しか店屋物を頼むことが無くなった為にその現金も使わずに残るから当然引き出す回数も減ったというコトだろう。
その上、外食するのも飲み歩くのもかなり減った為に、クレジットカードの使用頻度も車とバイクのガソリン代に使うくらいなモンだったかもしれない。
…でも、これじゃイカンだろ――。
この前行った温泉の宿泊代なんて比じゃないくらい貯まっている。
貯まりすぎている。
この半年に満たない間で結構スゴイ額が。
通帳のページを行ったり来たりして“散財してた時期”と比べると、毎月の貯金の増え幅が“ある月”を境に数段アップしている。
今年の6月からだ。
モロに“生活の変化”がこの通帳で証明されている。
そこで俺がどんだけ渚に甘えてるのかというのを実感。
軽くヘコむくらい実感。
…っていうか渚と休みが一緒の時って何してたっけ?
@ちょっとバイクでブラブラ →風景写真撮って帰ってくる
A雨が降ったら目的なしのドライブ →地物野菜買って帰ってくる
B海に行って魚釣り →釣った魚は夕飯のおかずに
C家でボーッとする →ソファでDVDみながらイチャイチャ
D釣りの仕掛け作りやバイクのメンテナンスに没頭 →お互い無言でカチャカチャしながらニヤニヤ
…うん。
休みにゃ休みらしくしっかり休んでたな。
…でも思い出しただけでもすっげぇ地味なローテーション。
金使ってねぇしっ…!!
ガソリン代と釣り餌代と野菜代だけじゃねぇかっ…!!
“休日の買い物”つったっていっつもスーパーで食材や日用品を買うだけだ。
しかもいつも渚がサッサとレジを済ませてしまう。
モノと言った“モノ”は渚が俺ン家で使う毛布と枕を買った以外は何も買ってない&買ってやってない…気がする。
『コレ欲しい〜』とも『コレ買って〜』とも言われたコトがない。
渚にもそれなりの財力があるから困っていないというコトなんだろうが、これじゃ“俺が養ってもらってる”ようなモンじゃねぇか…?
これじゃイカン。
もう『いいからいいから』と言われても甘えてなんかいられねぇな――。
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