君のその手を

□17章:寒い日の必需品。
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今日は医者同士の会合(情報交換&他科との親睦会)があったのだが、その次は“飲み会”になるというのが恒例の流れ。


症例検討や議論・討論が終わると、一斉に息吐くと同時にガラリと豹変する参加者達。宴会が始まると同時に賑やかになってくると、早くその場から抜けたい気持ちは山積みになっていった。


何故なら毎回上司連中は若い医者連中を取っ捕まえて遠慮無く酒を薦め、ベロンベロンに酔わせるモンだから始末が悪いのだ。



だが、今の俺の立場は“中堅”で。

この“どっち付かず”の立場は非常に動きやすく、俺は一瞬の隙をついて(トイレに行くフリして)そのままタクシーに乗り込んで帰ってきた。










『何時に帰れっか分かんねぇから先に寝てろよな』



と渚に言っておいたワリに、待っててくれるのを半分期待しながらほろ酔い気分で帰宅した俺。





だがその“期待”は半分当たって半分外れた。







「おーい…起きろ…亀…。」


「は…い。」




「………亀だと認めるか。」





コイツは『亀』と言われたのに返事しやがった。

しかも、返事したのに微動だにしない。






リビングに置かれた“丸いコタツ”を背負うようにうつ伏せに寝ていた渚。



見えているのは頭と小さな両手。


目の前にあった雑誌のページが開かれたままであったコトから、読んでいるウチにうつらうつらとしてしまったんだろうというのが見てとれる。




…にしても、




どこをどうみても“亀”にしか見えねぇし…。




…新種発見しちまった。





と、思わず吹き出しそうになった口元を手で覆って堪えた。

















もはや渚の定位置と化した“ソレ”が置かれたのは外の木々が色づき始めた季節の頃――。







『あの…買ってきて置いてもイイですか?』









と、ある日の肌寒い朝に渚が俺に訊ねた。





それに対して、



『あっても無くても俺は困らない』

『しかもココはオマエん家なんだから好きにしたらどうだ?』




って言ったらその日の晩にはもうあった。




よほど欲しかったんだ、というコトが伺えた。



定番と言えるだろうミカンもセットで。














四国生まれの俺と、東北生まれの渚。



ちなみに俺は“ソレ”に入った事はあっても、購入した事がなかった。




同じ国でありながら、生まれ育った環境の違いというモノをココで知る事になり、それからも季節が進むゴトに渚の“冬支度”は着々と進んでいく。




ココが関東地方で数える程しか雪が積もらない地域であったとしても、当然のように渚は愛車のタイヤ交換。


しかもジャッキと十字レンチを使って自分でやっていた。



そして驚いたのは、渚曰く『寒い夜に欠かせない』アイテム。





俺がオンコールで深夜遅く帰ってきた時、何かに抱きついて丸まって寝てると思って見たら“湯たんぽ”だった――。






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