君のその手を

□15章:触れるだけで伝わる“言葉”。
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「ゆっくり歩いてくださいね。」

「…普通に歩けるっつーの…。」

「強がり言ったってダメですよ。いつもと全然違いますから。」




渚はマンションに着いてから部屋へと向かうほんの少しの間も俺の側にピッタリと寄り添い、背中から身体を支えていた。

しかも俺の荷物だって奪い取るように全部持ってしまってるし。




そんなに重症感が滲み出てんのか?

そんなにいつもと違うか?




「渚…、そんなに心配すんな。一晩寝りゃ治んだろうし。」


「そんなの分かりませんよ。一晩処じゃ済まないかもしれないですし。でも私に出来る限りのコトはさせてください。 …たまには頼って欲しいんです。…ね?」


「……ん。悪ぃな――。」


「もうっ…、『悪い』だなんてコト思わなくていいですよ。当然のコトですから。」



そう言って渚は優しく微笑んだ。






『当然』か…――。




そうだな…――


“今日”くらいは全面的に渚を頼ってみるってのもイイかもしんねぇ――。












「…とりあえず先にシャワー浴びてくる。」


「じゃあその間に卵粥でも作っておきますね。…食べれそうですか?」


「あー…そんなの食いてぇ。頼むな。」








そうして若干フラフラしながらシャワーを浴び終えて出てくると、小ぶりの土鍋にネギがたっぷり入った卵粥が出来上がってた。



それを見た途端に鳴った腹の虫。



生姜の香りと鰹の出汁がほのかに広がる食べやすい味付けで、『食欲がない』っていうのが嘘だったみたいに全部食べあげてしまった。

しかも渚より早く。




「…良かった。少しでも食べないとダメですもんね。さあ、食べて薬飲んだらベッドで休みながら熱測っててくださいね。今点滴をセットしますから。」


と、まるで病室の一室にいるような渚のセリフ。



「…了解。」



俺は素直にその“専属看護師”の指示に従い、薬を飲み、歯磨きを済ませてからベッドへと向かった。








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