君のその手を

□15章:触れるだけで伝わる“言葉”。
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とりあえず渚にいつもの“帰るぞ”メールと一緒に“熱出たから点滴持って帰る”と付け加えて打っといた。



…で送信確認してから携帯を胸ポケに仕舞った途端、着信が。





「…もしもし―『先生大丈夫っ!?迎えに行きましょうか!?』




思わず携帯を耳から離してしまいたくなるくらいの切羽詰まった渚のデカイ声。




「あ、いやソコまでは…」



『御飯食べれそう!?お粥がイイですか!?』



「いや…とりあえず普通に用意してくれたのでイイ。…あんま食欲ねぇけど…」




…あ、余計なコト言っちまった。



『ぇえええ!?…やっぱ車で迎えに行きます!!バイクは危ないから絶対ダメっ!!直ぐに行きますから待っててくださいっ!!』


「え…、あの…『プーッ…プーッ…プーッ…』





…ブッチ切りされた。





「今の電話、渚だろ?思いっきり心配してただろ?」

「はぁ…まぁ。『迎えに行く』って…電話切られたっス。」



「ククっ…オマエ愛されてんな〜。」


「…はぁ。どうも。…つーか熱出たくれぇで何慌ててんだか…。俺、仮にも一般人じゃねぇのに…」


「…なぁに、簡単なこった。医者だって一人の人間。知識や腕があったって不死身なワケじゃねぇんだから病気だってするのは当たり前だ。それに渚は“医者”だからとか職業云々で心配するとかしねぇとかの“線”は引かねぇよ。『具合が悪い』っつーのはみんな同じだからな。今晩は手厚く看護してもらえよ。たまには患者気分でも味わってみろ。」



「…はぁ。でも、あんま心配されんのもなぁ…って。ガキじゃねぇんだし…。」


「そうか?俺は渚にだったら四六時中看護してもらいてぇぞ?」


「………(そりゃ俺だってしてもらいてぇよ)。」













…で、とりあえず仕事の申し送りを今晩当直の谷に伝えて任せてきた。

一応『何かあったら気にせず電話しろ。』と念を押して。




そしていよいよ本格的に“重さ”が増してきた身体を、やっとこさ動かしながら着替えを済ませて職員出入口へ出ると、既に病院前の道路脇にハザード点けて停車してた渚の車を見つけた。




「あ゛ー悪ぃな…渚―、っ!!って何だイキナリ!?」




身を屈めて助手席に乗り込んだ早々、額に手を当てられたのだが、少しひんやりとした手が心地良く感じた。



…で思いっきり心配そうな表情を浮かべながら



「――うん。…結構熱ありますね。元親さん、頭痛くないですか?」

「あー…まぁ痛ぇな。どこもかしこもダリぃ…。」



「寒気はします?」

「…今メッチャしてる。」



「咳は出ますか?」

「喉は痛ぇケド…咳は出ねぇ。」



「あ、元親さん。家に着くまでシート倒して横になっててください。そのほうが楽でしょうから。早く帰って身体を休ませましょうね。」

「ああ…。…悪ぃな。…つーかまたオマエ車飛ばして来ただろ。エプロンだってしたまんま…。」

「エプロン?あ…着けたままで来ちゃった…。」





時間的にも格好的にもよっぽど慌てて家を出てきたってコトが丸分かり。しかも俺に言われるまで気付いてなかった。



でも帰り道を走り出した車はゆっくりと静かで、俺の身体を気にしてくれてるっていうのが伝わるくらい丁寧な運転。




当初、バイクで帰ろうと思ってたのは明らかに間違いだったと身に染みて感じる。


迎えに来てもらって正解だ、と重い身体が訴えていた。






…そしていつだってオマエは俺をあっという間に“Dr”から“ただの男”に戻しちまう。


渚に問診されて普通に答えてしまってたし。





ヘンな意地張ンのは止めとこう――




珍しく“素”で『元親さん』って呼んでくれてんしな――






そして俺はその間接的に伝わってくる優しさをじんわりと感じながら暫し目を閉じてシートに身体を預けた――。








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